実行機能は本当に大切なのか?

これまで、2つの実行機能について紹介していました。一つは将来の目標のために、欲求を制御する感情の実行機能、もう一つは目標を保持しながら、頭を柔軟に切り替える、思考の

実行機能です。この二つの中で、世界中の研究者が注目しているのは思考の実行機能だそうです。なぜなら、この思考の実行機能は、子育てやトレーニングなどで、向上させやすいところがあるからであると森口氏は言っています。逆に感情の実行機能はその場の状況、子どもの気分や好みに影響されてしまうと森口氏は言っています。昼ご飯を食べる前と食べた後では、マシュマロテストに対するやる気も大きくなるというのです。確かに、お腹がすいていたりすると、大人でもイライラしたりします。こういったその状況での影響を感情の実行機能は大きく受けてしまうのでしょうね。

 

また、目の前のマシュマロを食べること自体、決して間違ったことではないと、森口氏は言います。家庭の経済状態が良くない場合、目の前にあるお菓子を食べることと、食べたい気持ちを抑えてお菓子が2倍になるのを期待することと、どちらの方がほうがいい選択でしょうかというのです。もしかしたら、せっかく2倍になると思って欲求をコントロールしたのに、誰かにお菓子を食べられてしまうということもあるのではないか。つまり、マシュマロテストが有効なのは、がんばったら報われることが保証されている状況においてだけなのです。これは非常に大切なことです。そもそも、相手が信頼できる人でなければ、我慢する必要がないのです。これによって見え方が変わってきます。仮に待てる子どもだったとしても、相手が信用できない人であれば、先に食べてしまった方がいい判断をするかもしれないからです。一方で、思考の実行機能については、たとえば頭を切り替えられることと、切り替えられないことを比べた場合、前者の方が大事であることは間違いないといます。そういった意味で、思考の実行機能には安定感があり、その結果として、子育てや訓練の効果が比較的でやすいということが理由として挙げられるのです。

 

そして、思考の実行機能が注目されている2つ目の理由は小学校以降の学校生活への影響力が大きいと考えられている点です。この点に関してはダニーデンやイギリスの縦断研究から、実行機能は子どもの健康や経済状態に影響を与えることが示されています。しかし、どのような実行機能が、子どもの様々な指標にどのように影響を与えるかが明確ではないのです。実際のところ、実行機能が高いと言われた子どもが、大人になったときに経済状態が良いという結果が事実だとしても、そこに因果関係があるかどうかをはっきりとさせることは難しいのです。

 

「子どものときに実行機能が高いから、大人になってから経済状態が良い」(因果関係)と「子どもの頃に実行機能が高かった人が、大人になってからたまたま経済状態が良い」(相関関係)では大違いなのです。

 

そこで最近は、思考の実行機能や感情の実行機能が、具体的に子どものどのような行動や能力に影響を与えるのかが検討されています。