実行機能への影響

子どもが実行機能を発達させていくことにおいて、遺伝子が影響していることがわかってきました。しかし、森口氏は遺伝子がすべてではないといっています。環境的要因も重要になってきますし、遺伝子の働き自体が環境に影響を受けることも示されているからです。では、子どもの成長とともに、どのような環境的な影響が重要になってくるのでしょうか。

 

初めにとって最も早い時期の環境は、生まれる前の母胎の環境があげられます。この時期は実行機能そのものはありませんが、前頭前野の発達に影響を与える重要な要因が胎内環境にあると森口氏は言っています。レスブリッジ大学のコルブ博士らの一連の動物研究において、ラットの母親の胎内環境が子の前頭前野の発達に影響を及ぼすことが示されています。どういったものが前頭前野の発達に影響を及ぼすのでしょうか。コルブ博士らの動物研究では、妊娠中の母胎のストレスが子どもの前頭前野の発達に影響を与えるということが分かってきました。ここでは、水のはったゲージの中にラットを入れるなどのストレスを与えたそうです。そうすると、前頭前野の一部領域において、神経細胞の一部が過剰生産されたり、逆に過少生産されたりしてしまうなどの影響があることが示されたのです。ストレスが前頭前野の発達になんらかの影響が与えられたのは疑う余地がありません。

 

人間の場合においては、胎内環境の重要性を示す証拠は早産の子どもたちの研究です。在胎37週未満で生まれてきた赤ちゃんはそう産児と言われています。早産児は実行機能の発達に問題を抱えやすいことが示されていると森口氏は言っています。これは在胎期間が短いことによって脳の発達過程が満期児とは異なることや、出生後の環境が母体とは異なることが影響を与えるためと言われています。そのため、早産児に対するケアは非常に重要になります。

 

つぎに、出生後の家庭環境です。現在、発達支援や教育支援という観点から重要視されているのが、家庭の経済状態と実行機能の関係です。これは以前のポール・タフ氏の著書「成功する子・失敗する子」の中でも触れられていましたね。家庭環境において、貧しい家庭にいる子どもたちは裕福な家庭にいる子どもたちに対して、投資されるものが多くなります。そのため、教育においても、多くの投資を受けることによって、将来成功する機会が多くなるということが言われていました。森口氏はそれだけではなく、社会経済地位が子どものいくつかの能力においても影響を及ぼしているといっています。

 

では、家庭環境がどのように子どもの実行機能に影響を与えていくことになるのでしょうか。