スポーツと実行機能

森口氏は単純な運動よりも、スポーツのほうが実行機能を向上させると言っています。その中でも有名なものがテニスとサッカーがあげられるそうです。テニスは個人競技ですが、相手との戦いの中で、自分の感情や行動を持続的にコントロールする必要があります。たとえば、思い通りにボールを打てなかった時や、サーブが入らない時にどうしてもイライラしてしまいます。これはテニスの試合を見ているとよくわかります。プロのトッププレーヤーでも自分の思い通りに試合が進まない時はラケットを地面にたたきつけたり、感情をむき出しにしている様子が見られます。こういった時に頭の切り替えが必須になると森口氏は言います。そして、森口氏はスイスのテニスプレーヤーのロジャー・フェデラー選手を紹介しています。

 

ロジャー・フェデラー選手はテニス界史上最強とも言われるスイスのテニスプレーヤーです。彼は今でこそ、スポーツマンシップにあふれ、試合中も紳士的な振る舞いで世界中にファンがいますが、若い頃はお世辞にも自制心がある選手とは言えなかったそうです。子どもの頃は、集中力がなく、感情的でいつもエネルギーを持て余し、相手にショットを決められると、怒りだし、相手に負け惜しみを言っていたというエピソードも残っているほどだったそうです。しかし彼は、心理学者の力を借りて、自分をコントロールする力を身につけるよう試みたそうです。その影響もあったのか、フェデラー選手の素行の悪さは鳴りを潜め、スーパースターの階段を駆け上がっていきました。

 

最近の研究では、テニスの経験によって、子どもの実行機能が身につくことを示すデータがあるそうです。玉川大学の石原博士らの研究は、6歳から12歳の児童を対象に、テニスの経験の長さと、思考の実行機能の関係を調べました。その結果、特に男子において、テニスの経験の長さと、思考の実行機能が関連していることが明らかになっています。運動とスポーツについてまとめてみると、スポーツが難しい幼児には単純な運動をすることが、小学生以上の子どもにはスポーツが有効な方法だといえそうです。しかし、みんな運動が好きというわけではありません。ほかのことでは実行機能を得ることはできないのでしょうか。幼稚園や保育園では運動だけではなく、楽器を奏でることや絵を描くこと、積み木で作品を作ることが遊びの環境に作られます。では、運動以外に音楽や絵をかいたりすることは実行機能に影響を与えることはあるのでしょうか。