実行機能を鍛える

自分をコントロールする実行機能は遺伝的な要因もあれば、親や家庭環境、地域や文化など、様々な環境要因においても影響をつけているということも同時に分かってきました。環境による要因においても影響があるということがわかるのであれば、鍛えたり、支援したりすることができるのではないだろうかと思います。そういった環境を作ればいいのですから。国外では実行機能の発見とともに、実行機能の低い子どもたちを支援する動きが広がっているそうです。では、それはどういったことが実行機能を育てることになるのでしょうか。

 

森口氏は子どもの実行機能を訓練する研究はまだ途上だと言っていますが、その中でもいくつかを紹介しています。まず、多くの研究者が採用しているのは「ひたすら練習する」という方法です。この方法では、コンピューターなどを用いて大量の練習を菓子、その前後で実行機能が改善するかを調べます。当然、子どもはこのテストで多くのミスをします。ルールを切り替えるときに正しくルールを切り替えることができないのです。その後、切り替えテストと同じようなゲームを用いてひたすら訓練します。一定の基準に達したら訓練が終り、その後に、もう一度切り替えテストを子どもに行います。訓練前後でテストの成績が変化するかどうかを調べるのです。その結果、思考の実行機能の成績が、訓練後に向上することが示されました。

 

このようにひたすら練習を繰り返すことによって実行機能を向上させるのですが、練習を単に繰り返すだけでは、あまり効果はないと森口氏は言います。それは「振り返り」を行うことによって、知識の定着が促されることです。ミネソタ大学のゼラゾ博士らの研究では、訓練の前後に切り替えテストを与えて、訓練によってテストの成績が向上するかどうかを調べました。訓練では、テストと同様に、切り替えのゲームが子どもに与えられます。そして、子どもがゲームで失敗したときに、ゲームのミスを振り返らせます。形ルールで分ける必要があるのに色ルールで分けた場合、今どのルールで分ける必要があったのかを子どもに考えさせるのです。そのうえで実験者がお手本を見せます。その後、実際に子どもにわけさせます。このように子どもに自分のミスについて振り返ってもらい、どういうミスをしたのかを考えさせるのです。そうすると、子どものミスは大きく減少しました。このように振り返りを入れると効果があることが見えてきました。

 

しかし、森口氏は訓練のために、子どもがおとなしく座っていることができるだけで、ある程度実行機能があるのではないかと思っているそうです。確かに、席を立たない、座っている必要があるというように考えることができるというのは、それだけ自分をコントロールしているということでもあるのだろうということは想像に難くないです。つまり、よく保育していく中で「小学校のために座れるように」というのは座らせるのが目的ではなく、実行機能が育つような環境を作ることこそ、考えていかなければいけないのだろうということが分かります。