内なるモチベーション

主体性という言葉は保育においては非常に重要なキーワードになっています。そのため、保育者はいつもどういった保育を進めることができるのかを子どもたちの様子を見ながら保育を進めていきます。そして、子どもたちが主体的に物事を進めていくためには「活動がしたい」という動機がなければ物事にとりくむことにはつながりません。そのため、保育でも「動議付け」というのは非常に大切な意味を持ちます。しかし、これまでの話で褒美や報酬による動機によって起きるプログラムは大きな成果を得ることができなかったということが紹介されていました。では、本人がやる気になる動機づけをするときにはどういったことをすればうまくいくのでしょうか。

 

一つは気質によって動機となるかが異なるということが言えるというのを2006年カーミット・シーガルがいくつかの実験によってわかってきました。気質によって動機が異なるとはどういったことなのかというと、シーガルは気質とインセンティブ(意欲向上や目標達成のための刺激策)の関係を調べようとして、思いつく限り最も簡単なテストをしました。それは基本的な事務処理能力を評価する、読替スピード・テストです。まず、受験者は回答の鍵となる表を与えられます。それは様々な単語と四桁の識別番号の並んだリストです。次に、選択式の問題があり、それぞれの単語に対し、正解を含む5つの数字が並んでいます。受験生は鍵となるうえの表をみながら同じ数字となる正解を見つけて印をつければいいといった問題です。

 

シーガルは大勢の若者の読替えスピード・テストのスコアと標準的な認知能力テストのスコアを含む二つの大きなデータ群を見つけました。一つは、1979年から1万2千人を超える若者を追跡し始めた青年全国縦断調査(NLSY)と呼ばれる大規模調査。もう一つはアメリカ軍の新人のもの。彼らは軍に入るための試験の一環として読替えスピード・テストを受けていました。NLSYの高校生や大学生にはこのテストで全力を尽くすインセンティブはありませんでした。あくまで調査目的のためのスコアであり、成績には関係がなかったからです。しかし、軍の新人にとってはこのテストは大きな意味を持っていました。スコアが悪ければ入隊できなかったのです。

 

それぞれのテストを比較していくと、認知能力テストの平均は高校生・大学生のほうが軍の新人を上回りました。しかし、読替えスピード・テストでは軍の新人の方が上回りました。この結果を見て、シーガルはこの読替えスピード・テストによって本当に測定されたのは軍の新人が生まれつき数字と言葉を結びつける才能や事務処理能力があるかないかではなく、もっと根本的な何かではないかと気づいたのです。その何かとは、世界中で一番退屈なテストに気持ちを集中するための気質と能力であるということです。このテストで進退のかかっている軍の新人はNLSYの若者よりも熱意を持って取り組んだのです。このようなシンプルなテストの場合、少し余分に熱意があるだけで学歴の高い同年代の若者を超えるのには十分だったとシーガルは言っています。

 

ちなみにNLSYはその後も何年もあとまで若者たちを追っています。そのため、シーガルは1979年における認知能力テストと読替えスピード・テストの結果を20年後、受験者が40歳前後になったときの収入と比較します。すると予想通り、認知能力テストのよかったものはより多くの収入を得ていました。しかし、読替えスピード・テストの得点の高かった受験生も同様だったのです。実際、NLSYの参加者のうち大学を卒業しなかったものだけを見ると、読替えスピード・テストのスコアはあらゆる点で認知能力テストと同じくらい正確な予測指標になっていたのです。そして、スコアの高かったものの収入は低かったものよりも何千ドルも多かったのです。

 

それはなぜなのでしょうか。アメリカでは単語と数字のリストを単純比較する能力に重きが置かれているからでしょうか。そうではなく、彼らの得点が高かった理由は他の生徒よりも懸命に取り組んだからです。そして、実際労働市場で重きを置いているのは、見返りがなくてもテストに真剣に取り組むことができるような内なるモチベーションを持っていることです。だれも気付かないうちに、読替えスピード・テストは成人後の世界で重要な意味をもつ、認知能力とは関係ない技能を測定していたのです。