待つこと

ミシェルのマシュマロを使った研究からは面白い結果がいくつか出てきました。例えば、精神分析理論や行動理論が提示するところによれば、子どもにとってマシュマロを二つ手に入れるための最良の動議付けとなるのは、ご褒美を意識の中心に置き続けること、最終的にそれを食べられた時にどんなにおいしいかを強調することであるはずだったのですが、実際の結果は正反対だったのです。子どもたちはマシュマロが隠されていた時のほうが、目の前にあったときよりもずっと長く我慢できたのです。この実験で最良の結果を出した子どもたちは気をそらす方法独自に考えだしていました。一部の子どもは実験者がもどってくるのを待つ間、一人でしゃべったり歌ったりしていた。おやつから目をそらしたり、自分の手で目隠しをしていた子どももいた。昼寝を始める達人もいたのです。

 

ミシェルの発見によれば、子どもが時間を引き延ばすために効果があるのはマシュマロについて違う考え方ができるような簡単な助言があった場合でした。頭に浮かぶのおやつが抽象的であればあるほど我慢できる時間も伸びたのです。マシュマロを菓子ではなく、円く膨らんだ雲みたいなものと考えるように誘導された子どもたちは、7分ほど長く我慢することができました。本物のマシュマロを見ずに絵に描かれたマシュマロを見るよう勧められた子どもも比較的長く我慢することができたのです。仮に本物のマシュマロを見てはいても「絵みたいに額がついていると想像してごらん」といわれた子どもたちもいて、やはり18分ほどまつことができました。

 

しかし、ミシェルの発見を学校に取り入れようとすると、それは思ったより困難が多いことがすぐに分かりました。ダックワースは何人かの同僚とともにフィラデルフィアの学校で40人の5年生を対象とした6週間の実験を行い、自制心の訓練を通して指導し、宿題を終わらせたことに対して褒美を与えました。実験終了後、子どもたちは始めたころよりも今のほうが自制心がついたと思うと報告したが、実際のところはどういった尺度からみても、学校内の対照群の子どもたちと変わったところがなかったのです。自制心に関する教員の評価も、宿題の提出率も、標準学力テストの結果も、GPAも、遅刻の回数も比較はしたが、すべてにおいて効果はないことが分かりました。

 

というのも、一番長くマシュマロを我慢できた子どもたちが使っていたような自制のテクニックの問題点は、欲しいものがはっきりとわかっているときにしかうまくつかえないことである。とはいえ、ダックワースが五年生の子どもたちに目指してもらいたいと思う長期的な目標は20分後に貰えるマシュマロほどの実体があるわけでも、即効性があるわけでも、魅力的なわけでもなく、試験に合格する、高校を卒業する、大学で成功するといったより長期的なかたちのはっきりしない目標を達成するために必要な集中力や粘り強さをつけるにはどうしたらいいのでしょうか。