アタッチメントと世代間の連鎖

子どもとの良好な愛着関係があることで、逆境な環境においても、子どもたちがストレス対応システムに改善が見られるということが分かってきました。そして、それは子どもたちの将来においても影響があるということが見えてきたのです。タフ氏はシカゴに拠点を置く慈善団体「1オンスの予防基金」の自宅訪問プログラムを20年以上監督した幼児の専門家ニック・ウィクスラーとの話し合いのなかで彼はこれまでの経験の中で、新しく親になった人々との従来の話題(禁煙や乳幼児の栄養、言葉の発達など)に対応する内に、子どもの後々の成果をより良いものにするためにはアタッチメントの改善が最も強力な手段であるという研究に納得いったと言っています。

 

しかし、実際にはアタッチメントの改善に向かう訪問のスタッフが本分を思い出さなければいけないことがたびたびあったそうです。というのも、本来はあくまで愛着関係の改善が目的であって、若い親たちが抱える問題のすべてを解決することが仕事ではないのです。その様子をニック・ウィクスラーはこう言っています。「訪問スタッフにとってはかなりの難題なんですね。もっと何かしたいと本能的に思ってしまうんです。しかし、住環境の悪さや学校環境の悪さは、いつも解決できるとは限らない。我々にできるのは、親に心の強さやレジリエンスを持たせることです。可能な最良の親になれるように」

 

この言葉を受け、「1オンスの予防基金」の運営するプログラムで、「カトリック・チャリティーズ」のスタッフ スチュワート・モンゴメリーをタフ氏が見たときです。そこではジャッキーという16歳の少女と8カ月になる彼女の子どものマケイラを訪ねたときでした。その時のスチュワート・モンゴメリーの対応にさすがと思ったそうです。タフ氏はジャッキーたちの様子を見ていた時にまさに住環境や様々なことを思ったのですが、彼女はジャッキーに集中していたのです。まるで、彼女はマケイラに対して同じことをしてくれればいいと願うかのように、ジャッキーがマケイラを見る様子を見守り、励ましの言葉をかけ、温かく育むようなサポートを実践していたのです。

 

ひと世代まえの支援技法は、幼少期の言語スキルが重要だとしたハートとリズリーの研究の影響のもとに展開され、おもに子どもの語彙をふやすことを親に勧めていました。しかしこの方法には無理があったのです。それは低所得層の親の多くがそうであるが親自身に限られた語彙しかない場合、子どもに豊富な語彙を持たせようとするのは至難の業なのです。読み聞かせをたくさんするのも確かに一つの手ではあるのですが、幼児は親が語彙の増強に専念しているときだけではなく、あらゆる瞬間に言葉を吸収していくのです。そのため語彙不足は次の世代へと引き継がれる。英才教育の幼稚園にでも通い始めれれば世代間の連鎖を断ち切るのに役立つかもしれないが、親のみに重点を置いた支援では無理なのです。

 

しかし、これまでのフィッシャーやドージア、リーバーマンらの主張によれば、愛着関係を育むほうが、子どもの成長や改善に寄与する可能性がはるかに大きいというのです。そして、それは語彙の不足と違い、不安を生む親子関係は比較的小さな支援で対処できるというのです。つまり、不安定な愛着関係の連鎖は完全に断ち切ることができる。アタッチメントに問題を抱えた低所得層の母親が、適切な支援を受けることができることで子どもと安定した関係を築けるようになるのです。そして、それが子どもの人生に極めて大きな違いを生む可能性があるというのです。スチュワート・モンゴメリーの助けでジャッキーとマケイラが安定した信頼関係を築くことができれば、マケイラはいまよりは幸せな子ども時代を過ごせるだろうとこれまでの様々な実践の内容をうけてタフ氏は言っています。