外発的な動機

サウスフロリダ大学の二人の研究者が行ったM&Msチョコレートを使った実験は知能に関する従来の認識への大打撃を与えることになります。というのも、IQによってグループ分けをした中で、低いIQのグループの子どもだけ、知能指数があがったのです。つまり、これは外発的動議付けによって知能指数が変わったのです。同じIQの子どもたちをグループ分けしたのにも関わらず。そのため、一つの疑問がわきます。彼らの本当の知能指数は通常の79なのか、それとも上がった97なのか。ここまでが前回の内容でした。

 

そして、この内容は特に貧困地区の学校の教員が毎日のように直面する疑問だったのです。彼らは生徒が見かけよりも優秀であることには確信があり、彼らがやる気を出すだけではるかにいい結果が出ることは目に見えているからです。肝心のどうやってやる気をださせることができるのかということはいつも疑問でした。答えを出すたびに一生チョコレートを上げることは現実的ではありません。しかし、実際のところ、低所得者のミドル・スクールの生徒にはよい成績を上げればとてつもなく大きな褒賞があるのです。それは正答のたびにその場にでる褒美ではなく、長い目で見たときに知能指数が上がるのであれば、その姓とが高校を卒業して、大学に進み、その後良い仕事につける可能性が高くなるのです。それはその場でもらうチョコレートよりももっと大きな褒美になります。

 

しかし、なかなかこういったロジックを生徒に納得させるのはかなり難しいのです。そして、こういったモチベーション(動機づけ)による褒賞は時に逆効果になる場合もあるのです。スティーヴン・レヴィットとスティーヴン・タブナーは著書『ヤバイ経済学』(東洋経済新報社、2007年)の中で、献血が増えるかどうかを調べるために供血者に対し少額の給付金を出した1970年代の調査を紹介しています。実際のところ、そういった給付金を出したところで、献血者は増えるのではなく、減ったという。

 

M&Msを使ったテストでは即物的なインセンティブ(刺激、誘因)によって結果が大きく変わることが示されているが、現実はたいてい同じようには運ばないのです。ハーバード大学の経済学者ローランド・フライヤーがこのM&Ms方式の実験を都市部の学校システムに広げて行いました。フライヤーは公立学校でいくつかの異なったインセンティブ・プログラムを試します。ある学校では、クラスのテスト結果が改善されたら教師にボーナスを出します。別の学校では、成績の上がった子どもの家族に対して報奨金を差し出します。その結果、どういったことが起きたか。結局のところどれも残念な結果に終わったのです。その中で最大の実験はニューヨーク市で教員へのインセンティブを提供したもので、7500万ドルの予算と3年の時間をかけてものでした。そして、2011年、フライヤーは望ましい結果が出なかったと報告しました。

 

以前、大阪市で子どもの成績を上げるために、教員にボーナスを出す。といった、政策を提案されたことがありました。まさしく、これと同じことが起きています。また、保育士不足のために、自治体がお金を出すことで保育者を確保するということも起きていると聞いています。しかし、この研究を見る限り、大きな成果を得ることはできないかもしれません。外発的動議付けというのはその場ではいいといった即物的なものではあっても、長期の見通しを見ると結果にはつながらないものなのだろうということが分かります。では、どういったことをすれば先の未来がよりよいものになる提案になるのでしょうか。長期的な見通しをもち、粘り強く物事に向き合うような気質を備えることになるにはどうしたらいいのでしょうか。