真似る。模倣。環境

赤ちゃんは「観察」をもとに、人の行っている行動を自分の行動と認識し、他人のする実験や介入の結果から学ぶことができるようになることで、学習の範囲が一気に広がると言います。こういった観察を通して、物事の因果学習をしているとゴプニックは言います。それは赤ちゃんも同じく行動から学ぶと言っています。

 

この様子は保育の中でも様々な場面で見ます。今自園では、昼食時、自分のエプロンやタオルを汚れ物袋に1歳児クラスの子どもたちはいれています。その様子を見て、0歳児クラスの子どもも先生の手を借りながらですが、同じようにタオルやエプロンを入れているのを見ているとそれだけ、模倣が起きていることが見えてきますし、模倣がおきるということはそれだけ観察を通して学んでいるということでもあるのが伺えます。

 

アンディ・メルツォフは模倣研究の第一人者です。1970年代にはすでに赤ちゃんは生まれたときから、他人の仕草や行動を真似することを研究によって示してきました。9ヶ月の赤ちゃんは模倣を使った因果学習もできます。他人の行動を漠然と真似るのではなく、それをしたらどうなるか知ったうえで、同じ結果を起こそうとして真似をしてみるのです。まさに、0歳児クラスの赤ちゃんの起こしている行動ですね。実験では、研究室にやってきた1歳の子に、実験者が自分の頭で箱を小突くと箱が光るのを見せます。すると、その1週間後に再び研究室にやってきたその子は、机の上に箱があるのに気づくや、自分の頭でそれを小突き光らせようとしたのです。

 

1歳半になるともっと洗練された学習ができるようになります。ジェルジ・ゲルゲイは、先ほどの模倣実験を2つのパターンに分けました。一方は先ほどと同じ、もう一方は毛布で体をくるみ、両手を使えない状態にして行います。この両方を赤ちゃんに見せると、先ほどのように手が使える人が頭で箱を小突いたのを見た赤ちゃんは、真似をして頭を箱につけます。しかし、毛布にくるまれた人が頭で箱を小突くのを見たときは、赤ちゃんは頭ではなく、手を使ったのです。これはつまり、同じことをするだけでなく、手が使えるときは手を使って、手が使えない時は頭を使うのだということも学んだのです。

 

メルツォフの別の実験では、2つに切り離せるダンベルを使って、実験者がそのダンベルを切り離せない様子を赤ちゃんに見せます。それからダンベルを赤ちゃんに渡すと、何と赤ちゃんはこれをあっさり切り離してしまうのです。子どもは他人の成功からだけではなく、失敗からも学ぶことができるのです。赤ちゃんはこのように誰かの真似をしながら、人間がもつ意図、それを果たすための行動、その結果が織りなす複雑な因果関係を徐々に学んでいくのです。

4歳になると、他人のする実験、介入から得た情報をもとにとても複雑な因果推論ができるようになるとゴプニックは言います。たとえば、前回、ゴプニックとシュルツが行ったスイッチを押すと歯車が回る「歯車おもちゃ」実験では、子どもたちはオモチャの仕組みが分かるまで自分自身でいろいろな介入をしたというのを紹介しましたが、大人がやるのを見るだけでも、その仕組みを学べることができたのです。

 

幼児になるにつれ、乳児とは違い、複雑な模倣ができるようになる姿はよく見ます。そこには乳児からの因果構造を知る活動を行っていくことで、次第にその力が深まっているからできるのでしょう。そして、そのためには多くのモデルを見なければいけません。よく、保育において、兄弟がいる子どもと、一人っ子の製作を比べると、兄弟児の方が割と面白いことをすることが多いのはそれだけモデルを見ているということなのだろうと思います。模倣というの活動は今後の子どもの力を伸ばすにあたって非常に重要な「環境」であるということが見えてきます。