脳内マップ

ゴプニックは因果関係の理解と反実仮想との関係は表裏一体だと言っています。世界の仕組みが理解できているから反事実を作り出し、別の可能世界を探求することができるのです。逆に因果関係の知識が理解できていなければ、反実仮想はできないのです。穴のないリングを棒に通そうと四苦八苦していた15カ月児はどんな時にリングが棒に通るかを知らなかったのです。

 

ゴプニックは「子どもはごく幼いうちから因果関係の知識を持ち、それを使って未来を予測し、過去を説明し、現実と違う世界を想像します」と言っています。では、それを可能にしている心の仕組みはどういったものなのでしょうか。それは子どもは世界を説明する素朴な理論「素朴心理学」「素朴生物学」「素朴物理学」の理論をもっているという言い方で説明できるのではないかとゴプニックは言います。これらは科学理論と似ていますが、論文や学会で発表されるようなものではありません。ほとんどは意識にすら上らず、子どもの脳でコード化されているものであるといいます。このように理論のような抽象的なものをコード化できるのは子どもの脳において、意識にはのぼることのない因果マップ、世界の仕組み正確にとらえた地図がかけるからなのだそうです。では、それはどういったもので、子どもの頭の中でどのようなことがおきているのでしょうか。

 

脳には地図を描くことができる機能があると言います。それは人間だけではなく、リスやネズミですらどこになにがあるのかを脳の中に認知マップを作ります。そして、この脳内で作られたマップは紙の地図などとは違い修正がしやすく応用もききます。まさに、カーナビと頭の中の知識としての地図ですね。そして、こういった機能を司る部分はどこであるのかも大体わかってきているそうです。脳の海馬がその場所にあたり、その海馬を除去されたネズミは、それまで抜けられた迷路を抜けることができなくなります。

 

マップは予想図の下地となる青写真にもなります。つまり、地図としての役割だけではなく、地図が世界のありようを写しとったものなのに対し、青写真は逆に世界をこう変えたいという予想図になります。たとえば、地図がなければ、あてもなく目的地まで歩き、行き方が分かれば、一度通った道を繰り返し歩きます。それに対して、マップがあれば、行き方の予想ができるだけではなく、様々な生き方の中から最短ルートを見つけることもできます。つまり、具体的な地図としてのマップと最短ルートを探索する青写真が作れるのです。これと同じことが脳内でも起きているのです。

 

人の頭の中では、こういったマップ作りが行われているのですが、これと同じように人の脳の中には「因果マップ」つまり、出来事の複雑な因果関係を表したマップが作られることもできるようになります。そして、子どもの脳の中にもこのマップ作りはすでに行われているとゴプニックは言います。