空想世界と空想の友

心理学者マージョリー・テイラーは空想の友だちをもつ幼児期の子どもたちの現象を研究しました。彼女によると空想の友だちがいる子といない子は、わずかな差でしかないようです。まずは、一番上の子と一人っ子は、下の子より空想の友を持ちやすい傾向があります。外交的な子は内気な子より空想の友を持ちやすいことも分かったそうです。また、テレビをよく見る子は空想の友を持ちにくく、本をよく読む子も同じであったそうです。どうやら他人の空想世界に浸っていると自分の空想世界をつくりにくいのかもしれません。しかし、ある特定の子どもが空想の友を持つようになるかどうかを予測するのはほぼ不可能であると言います。空想の友だちは、特殊な才能があったり、頭が混乱していたり、飛び切り想像豊かな子に見られるものではなく、子ども一般にみられる現象というのが正しいのだそうです。

 

この空想の友を持つことは他のごっこ遊びと同様、空想の友だちも子どもにとっては実感があるもので、子どもは明らかに情緒的な反応を示します。これまでこういった子どもたちは精神分析の面から言うと現実認識に問題を抱えていると考えられていました。フロイト流の精神分析でいうと、空想の友だちのいる子どもはセラピーの必要な神経症患者であったのです。しかし、レイラ―の研究が示したのは空想の友だちがいる子とは、天才の証でもなければ、病気の兆候でもないということを示しています。そういった子どもたちは並外れて賢いわけでもなく、創造性豊かだとか、内気すぎるとか、心に問題を抱えているということでもないのです。空想の友だちは悩みやトラウマの産物ではなく、ほとんどの子どもたちにとっては単なるごっこ遊びの一つでしかないのだと言っています。事実、空想の友だちをもつ子にも現実と作り話は違うということが分かっており、空想の友だちは実在しなことも理解しています。そのことを面接法という方法で明らかにしました。

 

面接法では子どもたちに実際、様々な質問を投げかけます。空想の友だちについて、「なまえは?」「尻尾はどれくらいあるの?」といったようにです。そのうち、子どもたちは途中で質問をさえぎるように、彼女を心配するようなそぶりで「本当はそんなのいないよ」「いるふりをしているだけだよ」と答えたそうです。つまり、逆に質問者の質問に子どもたちが付き合ってくれていたのです。

 

このように子どもたちはごっこの延長で空想の友だちを作りますが、その発想は成長い連れてよりスケールが膨らんでいく子どももいます。それが「パラゴズム」と言われる、独自の言語、地理、歴史をもった空想世界です。これについてもテイラーは面接法によって、検証していきます。それによるとごく平均的な10歳児の中に、空想宇宙を持つ子が少なからずいることを確かめました。ある男の子は空想世界をもって人造人間や凶悪な種族がいる惑星を想像し、9歳のときからその子の生活の中で大きな位置を占めていたそうですが、12歳になると心の中から消えていきました。

 

このように子どもたちは現実世界とは切り離して空想世界や空想の友を持つことがあるそうです。しかし、空想世界をもつといった現象は空想の友を持つことに比べ、注意が向けられるようになったのはここ最近だと言います。しかし、思えば、物語を書く小説家の中には昔から空想して話を作ることが好きだったという人が多くいます。それでも空想世界について目が向かなかったのは、大人に対して秘密にされていたからなのかもしれないとゴプニックは言っています。