愛着の理論
赤ちゃんは人によって愛着のパターンを使い分けるということをゴプニックは言っています。人により、安定型や不安型、回避型などのパターンを自分の発する信号をどのように養育者が受け取るかによって統計的に証拠を集めます。そうすることで、自分がその大人に対して、どのような愛着のパターンをとることが良いのかを選ぶようです。もちろん、赤ちゃんの気質や遺伝要因によって、愛着パターンに影響が出ることもありますが、環境による要因からの影響もあるのです。
では、赤ちゃんにおける安定型と非安定型(回避型など)において愛の理論というのはちがうのでしょうか。これについて、スーザン・ジョンソンは、1歳児の愛着パターンが安定型か非安定型かを、アニメーションを使ってテストしました。その研究により、愛の理論が違うことがはっきりと示されたのです。画面には「母親」を表す大きな丸と、「赤ちゃん」を表す小さな丸が出てきます。大きな丸は坂を上っていこうとしており、小さな丸は坂のふもとにいます。2つの丸は本物の人間のように交流します。ある時点で「赤ちゃん」は体を震わせ始め、そこに本物の赤ちゃんの泣き声が重なります。そして、ストーリーは二通りに分かれます。1つは、「母親」が坂を下りて、「赤ちゃん」のところへ戻ってくるもの。もう一つは母親がそのまま赤ちゃんを置いて坂を上ってしまうものです。
安定型の赤ちゃんは自分の理論をもとに「母親」は戻ってくると予測したので、戻ってこない不思議な母親の出てくるアニメの方を長く見つめていました。ところが、これと正反対の理論を持つ非安定型の赤ちゃんは、母親は行ってしまうだろうと予測したため、「母親」が戻ってくる方のアニメを長く見ていました。
また、ジョンソンは先ほどの実験とは別に、今度は小さな丸で表現された「赤ちゃん」の行動を予測させる実験もしてみました。するとやはり、愛着パターンによる違いが認められたのです。安定型の赤ちゃんが「赤ちゃん」が「母親」の方へ行くだろうと予測したのに対し、非安定型の赤ちゃんは、このような予測をしませんでした。実験に参加した赤ちゃんたちは、幼い子ではまだ12カ月でしたが、早くも愛の理論をもとに行動予測をしていることが分かったのです。
このような赤ちゃんの愛着パターンは5歳・6歳になってから、愛をどう表現し、考えるかということと関連していることも分かりました。この年齢になると愛に関わる予測や反実仮想ができるようになります。たとえば、ある子どもの親が旅行することになりました。この子はどんな気持ちになりますか?この子はどうしたらいいですか?と質問したところ、赤ちゃんの時に安定型だった子どもは、その子の気持ちを予測し、適切な行動を提案しました。(電話を掛ける。母親の写真を見るなど)、しかし、回避型だった子どもは、その子が悲しむまではわかるのですが、役に立ちそうな提案ができなかったのです。(自分自身が別離の悲しみを表現しないから)
つまり、赤ちゃんのころにもった、愛着の理論であったり、予測といったものが幼児に上がったのちにおいても、影響を受けるのです。という事を考えたときに私は思うのですが、こういった愛着のパターンをケースを多く持っておくことが重要なことなのかもしれません。以前、母親と父親では愛着のパターンの出方が違うという話がありました。それだけ、子どもたちはしたたかに大人を見ているのです。もちろん、安定した安心基地があるからこそ、多様な行動もとれるのだろうとは思いますが、それだけの社会性を持っている赤ちゃんであるというのを考えると様々な大人との出会いを通してコミュニケーションであったり、愛着の理論というものの深まりはより深まっていくのかもしれません。やはり、人は社会の中で生きていくものなのですね。