人を使い分ける

赤ちゃんの愛着のパターンには「安定型」と「回避型」「不安型」とあり、「安定型」が必ずしも良いというわけではないとゴプニックは言っています。どのパターンが良いかは子どもが成長していく中での環境によると言っています。この三つの型とさらに、もう一つ「無秩序型」というものがあります。この型は、期待が定まらず、一つの愛着パターンから別の愛着パターンへ唐突に変わってしまうタイプで、この型の赤ちゃんは、後にいろいろな問題や困難にぶつかりやすい傾向があるようです。

 

このように赤ちゃんの愛着行動には様々なパターンがあります。なぜ、このようなパターンが生まれるのでしょうか。もちろんそこには赤ちゃんそれぞれの気質もあるようですが、多くの心理学者はこういった愛着行動のパターンが起こるのは、赤ちゃんが他人が自分にどう反応するかの「内的作業モデル」をつくるためだと考えています。内的作業モデルとは、子どもの発達とともに作られる理論であり、因果マップの一種ですが、物理学や生物学、心の理論とも違った、愛の因果マップです。たとえば、安定型の赤ちゃんは、不安を訴えれば養育者がすぐ慰めてくれると考えます。回避型の赤ちゃんは、不安を訴えたら余計にみじめになると考えます。不安型の赤ちゃんには慰めてもらえるという確信がありません。こういった赤ちゃんの反応は、誰かに世話をしてもらうために行われるのです。どうすれば構ってもらえるのかを知ることは、かなり切迫した重要な問題なのです。

 

愛着における内的作業モデルにおいても、赤ちゃんはその他の理論と同じように、周囲から集めた証拠をもとに作られていきます。赤ちゃんが発する信号に直ちに反応する母親を持った子どもは安定型になりますし、赤ちゃんの様子より、自分の悩みにとらわれがちな母親を持った場合は不安型になる傾向があるのです。

 

また、愛着のパターンとは遺伝的要因から起きるものなのでしょうか。また、母子との関係だけにおいて起きるものなのでしょうか。これについてゴプニックは、「赤ちゃんというのは、遺伝的につながった母親に限らず、世話をしてくれる人であれば誰にでも愛着を抱くものです。たとえば、パパは反応がいいけれど、ママは悪いと分かれば、パパに対しては安定型、ママに対しては回避型というふうに分かれます。ですから、愛着パターンは生まれつきの気質だけで決まるということはないのです」といっています。

 

つまり、赤ちゃんは養育者である大人の様子に合わせて、対応の仕方を変えるということなのです。このことから見ても、赤ちゃんは決して、受容的な存在ではなく、極めて能動的に大人を使い分けているということが分かります。赤ちゃんなりに、大人の出方を統計し、その大人に合わせて、どのようにすれば、自分のお世話をしてくれるのか、また、その大人は自分の世話をしてくれる人なのかをしたたかに見ているのです。