音楽と実行機能

運動以外に森口氏は音楽も、子どもの知能や記憶の発達に有効があることが示されていると言っています。ロットマン研究所のモレノ博士らの研究では、4歳から6歳の幼児が参加し、2つのグループに分けられました。1つは、音楽を通じた訓練を受けるグループであり、もう一つは美術を通じた訓練を受けるグループです。どちらのグループも1日1時間の訓練を2度、週に5日4週間にわたって訓練を受けました。

 

音楽の訓練は、主にリズム、ピッチ、メロディなどの音楽の基本的な特徴を区別したり、学習したりすることのほかに、音楽に関する概念や理論を学んだりするなど、多岐に渡る内容でした。もう一つの美術を通じた訓練を受けるグループは、形、色、線などの美術の基本的な特徴を区別したり、学習したりしました。どちらのグループも、訓練の前後に、IQと実行機能のテストをされ、これらのテストの成績が訓練を通じて向上するかどうかが調べられました。その結果、美術訓練を受けたグループは、IQも実行機能もほとんど変化がありませんでした。一方、音楽を通じた訓練を受けたグループは、IQと実行機能が向上しました。

 

では、音楽のどういったところが実行機能に影響があるといえるのでしょうか。森口氏は「子どもが音楽を楽しみ、他の子どもと一緒に取り組むことができる」ことが実行機能に影響があるところであると言っています。なぜなら実行機能は主体的に行動をコントロールする力であることから、どんなに有効な方法でも、子どもが嫌々やるような方法ではあまり効果は出ないからではないと考えられるからです。

 

これまで、運動、スポーツ、音楽が子どもの実行機能にどう影響するのかということを取り上げてきました。共通するのはどの事柄においても、自分の気持ちをコントロールする瞬間があることが見えてきます。それと同時に、各各々のことについて、「自分がやりたこと」つまり、主体的に取り組んでいることであることも重要な意味を持つということが見えてきます。ある意味で、実行機能を育むということに共通することは、自分が何をしたいかを明確に持っていることが重要なことなのかもしれません。好きなこと、心から取り組める何かを持つことこそが実行機能を持つことにつながるのだろうということが分かります。

 

では、乳幼児教育ではどういったことが求められるのでしょうか。よくこういった話をすると「だからいろいろな経験をさせなければいけない」と親が子供に「させたがる」ことがいます。「嫌がってでも、経験する中で好きなものが見つかる」という考えです。もちろん、そういった子どももいるでしょう。しかし、「一つ好きなことを見つけても、10嫌いになる」可能性もあるのです。やはり大人が子どもたちにしてあげることができるのは子ども達が選べるだけの環境を用意することなのでしょうね。