ネグレクト

前回の内容でアタッチメントが赤ちゃんと養育者とどのようについて関わることで、作られてくのかということが分かってきました。つまるところ、養育者と赤ちゃんの関係性の中で、お腹が減ったときや不安なとき、不快なときに適切に対応してもらうことでアタッチメントの関係性が深くなっていくようです。そのなかで、子どもは自分の感情をコントロールすることができるようになると森口氏は言っています。

 

森口氏ははじめは子どもは感情をコントロールすることはできないといっています。しかし、養育者にくっつき、慰めてもあることで、コントロールしてもらいます。そういった経験の中で徐々に感情をコントロールするという感覚がわかってくるのです。そして、今度は自分で、たとえば指しゃぶりなどをすることで、感情をコントロールできることに気づきます。そのうちに、養育者の手を少しずつ離れ、自分自身で感情や行動をコントロールし、実行機能を育てるというのです。

 

私が前回、思った「安心基地」とは少し話が違っていましたが、子どもが感じるアタッチメント(愛着)といった親との関係性というものは同じような考え方であるように思います。ただ、子どもたちは養育者との関わりの中で、自分の感情のコントロールをしているのですね。赤ちゃんとの適切な関りは「お節介や先に手を出すこと」ではなく、いかに「応答的な関わり」が必要になってくるのかということが分かります。

 

そして、このアタッチメントこそが、「ネグレクトのような状態では実行機能が育たたない」ということの大きな要因であると森口氏は言っています。ネグレクトの状態では、子どもは不安になっても、養育者とくっつくこともできなければ、慰めてもらうこともできません。そのため、最初は感情のコントロールができない子どもが、養育者の助けも得られなければ、感情をコントロールするという感覚を得ることができないのです。結果、ネグレクトの家庭で育つと実行機能の発達に問題を抱えてしまうと森口氏は言っています。

 

では、身体的な虐待や心理的虐待の場合はどうなるのでしょうか。以前の話でもネグレクトのほうがそのほかの虐待よりも実行機能に影響があると森口氏は言っています。それは身体的であれ、心理的であれ、「関わり方自体は間違っているものの養育者は子どもに関わっている」というのです。しかし、ネグレクトの場合、子どもに関わりません。この違いが大きいのです。もちろん、身体的虐待や心理的虐待も、子どもの脳や心の発達に深刻な影響を与えることには違いはないので、決してこれが良いというわけではないが、実行機能に関しては、子どもにとってストレスが強いのは、誰も関わってくれないネグレクトであるということが分かってきました。