10月2019

心の理論と学び

自分の心と他者の心を推測することといった「心の理論」はいつごろ獲得されるのでしょうか。先日のブログの中でも少し触れた部分なのですが、これまでは4~5歳児から自分と他者との関係がわかってくると考えられていました。これは「誤信念課題」といわれる方法によってわかってきました。それはどんな方法だったのでしょう。

 

例えば、男の子と女の子が部屋で一緒に遊んでいます。男の子がボールを籠の中に入れて部屋を出ます。男の子がいない間に残った女の子がボールを別の箱に移します。そして、この場面を被験者に見せて「男の子は最初にどこを探すと思いますか?」と聞きます。正解は初めに男の子がボールをいれた「籠」です。しかし、箱と答えてしまう場合は「心の理論」が得られていないということになります。この方法に対して、従来は4~5歳児は正しく答えられますが、それまでは他者が自分とは違う見解を持っていることを想像できないため、自分が知っている方を答えるといわれています。

 

しかし、この結論もどうやら違ってきているそうです。「3歳以下の子どもは心の理論をもたない」という定説を覆したのは2005年の科学雑誌「サイエンス」にある当時、イリノイ大学の大学院生であったクリス・オオニシらの論文であると藤森氏は言っています。赤ちゃんが数、引き算を理解しているという実験ですが、それによって月齢15カ月の赤ちゃんでも誤信念課題(他者の気持ちがわかる)ということがわかったそうです。こういった研究はまだまだ賛否両論であり、異論も多くあるそうです。しかし、このように様ざまな観点から「乳児が他者の行動を理解するメカニズム」を解明しようとしているのです。

 

人の真似をすること、模倣行動は社会行動の中でも最も重要な働きであると言われています。それは真似をすることで、試行錯誤なしで効率よく学ぶことができるのです。そして、ヒトの文化的な行動は「ヒトからヒトに伝えられてきたのである」ということもできるのではないかというのです。以前、民俗学の観点から子どもの文化を見ていても、大人の行動にとても興味のある子どもたちは様々なことに興味を持って模倣してみようとします。そして、その活動の中で、道具の使い方や食べ物の扱い、危険なモノへの対応などを学んでいきます。それはただ連合記憶のみに頼るやり方では、他者の行動を素早く真似ることはできないと言います。相手の行動とその文脈から行動の目的を推論し、同じ目的を達成するような自分の行動を生み出すことができたときに可能になります。それかまたは、相手の動きをあたかも自分の動きのように処理することによって、その行動に関わる一連の運動を体験し、学習することが可能になります。それが「目的論」や「シミュレーション論」というものです。

 

つまり、ただその物事を覚えるだけでは真似できないというのです。相手の意図がわかっていないと真似もうまくいかないのですね。勉強においても同じことが言えるのかもしれません。応用までできるようになろうと思うと、ただ覚えるだけでは応用はできません。何か目的がないとそこまで理解しようとする意欲は湧かないのかもしれません。「模倣から学ぶ」ということは結局のところ意欲が出やすい環境なのだと思います。社会脳は人間関係だけでなく、「学ぶ」という学習意欲にも影響するのだと思います。