言葉を獲得する基盤③

言語の獲得における土台の3つ目は「コミュニケーション」(対人関係)です。言葉を発しない赤ちゃんはコミュニケーションを取っていないかというと、決してそういうわけではありません。表情や視線、音声、身振りなどを用いて自分の欲求や意志を示し、他者とコミュニケーションを取ろうとしています。赤ちゃんのこういった時期にはすでに人の顔に似た図形に興味を持ち、人から発せられる感覚刺激に特別な反応を示すことから、人が人と積極的に関わろうとする力は、生得的なものであると考えられています。

 

では、この赤ちゃんの姿がどのように言語獲得に影響があるのかというと、4ヶ月頃になるといろいろな音の発声が可能になり、音声や表情で自分の欲求を示し、それに応答する他者との間に情緒的な絆が形成されるのです。6か月頃の子どもは喃語や反復喃語も表出し始め、まるで言葉を発しているようになってきます。そのため保育者の働きかけを喜び、応答を通じてコミュニケーションが豊かになってきます。大人の話す言葉の意味は分からなくても、褒めているのか怒っているのか、相手の表情や抑揚から理解できるようにもなってきます。短期記憶の発達に伴い、「いないないばあ」の遊びや、動作模倣も発達し「おつむてんてん」を楽しめるようになってきます。9ヶ月になると、自分と他者、自分とものという2項関係の認知世界から、自分と他者と対象物という3項関係の認知世界へと移行します。たとえば、物を受け渡したり、玩具を他者に得意げに見せたり、指差しといったことも出てきます。他にも受取る役と渡す役を交互に演じることも行い、双方向のやりとりが可能になってきます。このような3項関係の成立によって、相手の意図や欲求が表情や身振り、簡単な言葉のイントネーションから推測できるようになります。このやりとりが、後の対話の基礎となるのです。

 

その後、1歳3か月未満頃には有意味語が出始め、音声や身振りで意志表示をすることにも意欲的になってきます。コミュニケーションが一層発達する1歳から2歳頃になると、片言や動作などで親しい人に自分の意志を伝えるようになり、動作模倣や象徴遊びをもとに「言葉」と「言葉が表すもの」を理解するようになります。2歳以上になると、それまで大人へのコミュニケーションだったものが同年齢の子どもにも関心が向くようになり、ごっこ遊びなどを通じて、認知の発達や言葉の獲得が促されていくと言われています。

 

子どもたちは子ども同士のやり取りや大人との関わりを通して、言葉を獲得していくのだということが分かります。つまり、関わる経験や体験が多いことが言葉の獲得につながるのです。私はこれが3歳児から入園してくる子どもたちの言葉の発達の差異に見えてくるのではないかと感じられます。どうしても家庭だと、大人とのやり取りは起きていても、子ども同士の体験は少なくなります。そして、大人が子どもの相手をすると言葉を掛けることもありますが、先回りして子どもの相手をしてしまうともあります。つまり、乳児期からこども集団に居る子どもたちよりも経験や体験は少なくなっていることが言われるのではないかと思うのです。今の時代は少子化が進み、家庭の中でも子ども集団というものが少なくなっている時代です。関わる相手が大人だけであることも状況として多くあるという事を意識する必要があるように思います。そして、その環境を考えることが幼稚園においても重要な意味があるということをかんがえなければいけません。