鍛える

実行機能が子どもにおいて、重要であり、子ども期において成長していくということが分かってきました。しかし、実行機能を感情をコントロールすることや切り替えることは大人にとっても、必要なことです。では、実行機能は大人になると鍛えることはできないのでしょうか。それとも、鍛えることができるのでしょうか。森口氏はこのことに対して、大人を対象とした研究も進められていると話しています。中には、実行機能は筋肉のようなもので、使えば使うほど、鍛えられると考える研究者もいます。実際のところ、訓練を施すことで、実行機能が伸びていることを示す研究は多数報告されています。

 

しかし、森口氏はこのような個々の研究を基に実行機能が鍛えられると判断するのは危険だと言っています。ザールラント大学のフリーゼ博士らは、33の実行機能に関わる研究結果をメタ分析しました。この分析には、感情の実行機能とかかわる研究が多く含まれています。この研究では、利き腕ではない手を使って日常生活を送ること、すぐに使いそうになるスラングを使わないことなどの訓練が含まれています。この研究の結果、大人の自分をコントロールする能力は少しですが、鍛えられることが示されています。特に、女性よりも男性で効果が強いようです。それは男性の方が女性よりも衝動的であるため、訓練の余地があるのではないかと述べています。

 

つぎに思考の実行機能についてはどうでしょうか。こちらについては、さまざまなメタ分析がなされています。その中で、森口氏はシドニー大学のバーニー博士らの分析は、48の思考の実行機能の研究をメタ分析しました。ここでの研究は、主にコンピュータを用いた反復訓練で高齢の大人の実行機能を鍛えようとしています。その結果、こちらもわずかながら、訓練の効果が見られています。また、前回紹介した運動とコンピュータの反復訓練ではコンピュータを使った訓練のほうが有効であることも報告されています。これ以外にも、思考の実行機能で必須となる目標の保持を鍛える研究も多数されています。これも同じくコンピュータを使った訓練で、わずかではありますが思考の実行機能を鍛えることができるようです。

 

これらの結果から見ても、大人になってからでも実行機能を鍛えることは理論上可能です。しかし、これらの研究に問題がないわけではありませんと森口氏は言っています。たとえば、訓練をすることで実行機能が向上したとしても、その訓練を継続しない限りはその効果は一時的なもので、3か月後などに再調査すると、訓練の効果が無くなっているというのです。実行機能は鍛え続けることが大切なのです。少し訓練したくらいでは、その効果は長続きしないのです。

 

また、実験室の中で、実行機能が鍛えられるように思えたとしても、日常生活で必要とされる問題にはあまり役に立たないことも知られています。しかし、このことに関しては研究者の間でも、賛否が分かれているようです。2014年に、心理学者や神経科学者らが、事項機能を含む認知機能の訓練は、訓練されたテスト以外にはあまり応用できない、つまり効果がないという声明を発表しました。ところが面白いことに、同じ2014年に別の研究者とセラピストは、認知機能の訓練は訓練されたテスト以外にも効果があるという声明を発表したのです。