友達関係

青年期はアクセルとブレーキの脳領域の発達に差があるため、アクセルが強い時期であるということが分かりました。そのため、報酬回路が前頭前野のブレーキの機能より強く反応が出てしまうというと森口氏は言っています。また、この時期、仲間の存在が家族よりも重要になる時期です。前回紹介したように、「仲間外れ」に感じることが多く、抑うつを感じる脳領域に活動が見られることも多くありました。

 

仲間の存在は実行機能においても影響があるということは、これまでの内容でも触れていました。それは「仲間外れ」を感じるだけではなく、「悪乗り」という場面でも出てくると森口氏は言っています。青年期における仲間関係について、森口氏は「仲間関係は良くも悪くも作用する」と言っています。一人では絶対しないようなくだらないことや危険なことを仲間や友だちと一緒だとしてしまうというのです。つまり、友だちといると自分をコントロールすることが難しくなるというのです。

 

これはテンプル大学のチェイン博士らによって報告されています。この研究では、青年や成人を対象にドライビングゲーム中にどれだけ危険な行為をするかを調べました。そして、その時の脳活動をfMRIで比較しました。このゲームでは信号が変わる際に他の車と衝突するリスクを冒してまで信号に突っ込むかどうかを調べてます。そして、実験参加者に実際に友だちを連れてきてもらい、その友だちが見ている状況でやる場合と、ひとりでやる場合を比較しました。そのうえで、どれだけゲームの中で危険な行動をしたかを調べるます。すると、大人では、一人でやろうが友だちの前でやろうが、危険な行動をする数に違いがありませんでした。その一方で、青年期では、一人でゲームをやるよりも、友だちの前でやるほうが、危険な行動を多くしたのです。

 

その際の脳活動を調べてみると、大人の場合ではアクセルである報酬系回路の活動に条件間での違いはなかったのですが、青年では条件によって違いがありました。一人でやるよりも、友だちのまえでやるほうが、報酬系回路の活動が強くなっていたそうです。そして、危険な行為にブレーキをかける前頭前野の活動を見てみると、一人のときよりも、友だちの前でやるときの方が、活動が著しく弱いことも示されました。

 

友だちといる時ほど、アクセルは強く、ブレーキは利きにくいということが青年期の特徴としてあるのですね。しかし、友だちとの関係は何もわるいことばかりではありません。森口氏は友だちとの実行機能の関係において、友だちの存在が好影響を及ぼすという研究も報告されていると紹介しています。青年期においては問題行動、タバコやお酒など禁止されている行動を起こすことがあります。そのとき親や教師がやめるように促していても、若者は耳を傾けません。むしろ反発して、よりエスカレートすることもしばしばあります。若者にとっては、大人に対する反発自体が目的の一つであるからです。こういった場合、同級生からの働きかけが効果的になると森口氏は言っています。大人から言われるよりも、友だちに「悪ぶっているだけでかっこ悪いよ」と言われるほうが恥ずかしい思いをするかもしれません。

 

しかし、問題なのはここでいう忠告してくれる友達というのはクラスの中でも影響力がある生徒であるということです。友だちとはいえ、誰でもいいわけではないのです。これはブリストル大学のキャンベル博士の研究で言われていることです。実際にこういった一目置かれる生徒に訓練し、他の生徒による喫煙などの問題行動をやめさえるようにした結果、問題行動が減少することが報告されました。

 

このように見ていくと実行機能において、友だち関係というのは良いようにも悪いようにも影響が及ぼされるということが分かってきました。