それぞれの役割

 

高齢者が孫との交流で起きる身体機能の向上があげられるといわれています。一つは社会参加の機会が増えることです。そして、社会参加の機会が増えることで、幸福感や認知機能の向上をもたらすことにつながるというのです。これはオーストラリア在住のジャーナリスト、デボラ・ホジソンの記事ですが、オーストラリアの「女性の健康的な加齢プロジェクト」の報告では、約200人の女性について、認知症リスクの検査結果を20年にわたり追跡調査したら、定期的に孫の世話をする人のほうが認知力は高かったというのです。

 

なぜ、こういった認知力が高くなったのでしょうか。同プロジェクトに参加するメルボルン大学医学部のカサンドラ・サーケ准教授は「子どもの世話をすると、人は幸せな気持ちになる。それが認知症リスクの低減につながる」といっています。認知症リスクとなるのは喫煙や肥満と同様、孤独や孤立は認知症のリスク要因となるといわれており、家族と触れ合える喜びが意識を鮮明に保ってくれるから、認知力が高くなったのではないかと言われているのです。

 

子どもたちにとっても、祖父母は自分を幸せにしてくれる力を持つ存在としてあるようです。孫育てに関するベストセラーのある精神科医のアーサー・コーンヘイバーによると、祖父母による孫への「無条件の受容」は大きな意味を持つといっています。そして、高齢者と子どもはお互いに必要とし合い、「孫育て」こそもっとも純粋な無条件の愛のカタチだと言っています。実際、家族のカウンセリングに(両親だけではなく)祖父母も参加すると、子どもが急に心を開いてくれることがあったとコーンヘイバー自体もそういった経験をしたそうです。

 

また、赤ちゃんの発達に必要な多くのものと同様に、祖父母との関わりも0~3歳くらいまでの時期が最も重要だとコーンヘイバーは言っています。この段階は赤ちゃんが想像力豊かな子どもに育つうえで大切な時期です。その過程で祖父母にできることは、「遊び心と想像力の持ち主として孫に接すること。」共働きの両親に比べ、祖父母は時間的に余裕があります。だから子どもが新しい経験をし、それを消化し、記憶に刻み込むまで、じっくり待ってあげられるのです。つまり、祖父母は子どの想像力を養う良き「魔法使い」の役割を果たせるのです。

 

もう一つの役割として、「無償のインストラクター」としての役割です。子どもにとって、祖父母は自分(子ども)の両親の生い立ちや先祖の歴史を知っている人です。そのため、子どもが両親から自立したがる年齢になると祖父母は孫の「大切な秘密」を守ってくれる信頼できる友、あるいは共犯者の役を担うようになれるのです。ほかにも孫が釣りや編み物など趣味を見つけるようになると忙しい両親に変わって、関わることができます。これが「無償のインストラクター」ということになるのです。

これらのように祖父母ができることはたくさんあります。とはいえ、子育ての中心は両親であり、子育ての中核に手を出すのは控えたほうが良いとコーンヘイバーは言います。

 

子どものケアにはいくつもの「層」があり、それぞれが別な役割を果たしている。だから、その層を突き破ることは望ましくないというのです。親が不在でない限り、祖父母は親の層を侵害するべきではない。祖父母に親の代わりをしてほしいと願う子はいない。むしろ(親に内緒で)冒険の仲間になってほしいと思っている」というのです。

 

確かに、考えてみると祖父母は親の代わりになることはありません。しかし、親に秘密でおもちゃを買ってもらったり、特別な役割として祖父母の存在は子どもにとってはありがたい存在でもあります。逆に両親とだけ一緒であると、それはそれで窮屈な部分はあるのかもしれません。