報酬系回路と前頭前野

アクセルと関係の強い腹側線条体という領域は、報酬系回路と呼ばれる脳内機構の一部です。この回路は、脳の深いところにある腹側被蓋野と呼ばれる領域から、腹側線条体を経て、前頭前野などの領域に至るまでの領域を含みます。報酬系回路は食べ物を食べたり、セックスしたりするなどの本能的行動をするとき、もしくは予想するときに活動します。これらの行動は、生物が生き残るためには重要です。食べ物を食べなければ死にますし、セックスしなければ子孫を残すことができないからです。そのため、私たちはこれらの行動に快楽を感じるため、積極的に何度もしようとするのです。

 

これらの回路は、自分にとって価値があるものにたいして活動します。こってりしたラーメンを好きな人がいれば、苦手な人もいます。こってりしたラーメンが好きな人の脳内では、こってりしたラーメンを目にしたときに腹側線条体などの報酬系が強く活動していますが、こってりしたラーメンが苦手な人の脳内では報酬系は強く活動していないことになるのです。最近では、本能的な行動だけではなく、金銭を得ることや、他人によって褒められることにも報酬系は活動することが示されています。確かにお金を得ることは嬉しいですし、他人に褒められれば悪意を感じない限りは悪い気はしません。一方で、薬物もこの報酬系に作用することが示されています。それらの薬物を断つことが容易ではないのは、脳の報酬系回路を刺激するからなのです。

 

では、ブレーキに関してはどうでしょうか。ブレーキは前頭前野の外側の領域である外側前頭前野が中心になります。これらの領域の主な役割は、他の脳領域の活動を抑制したり、調整したりすることです。つまり、外側前頭前野は報酬系回路の活動をコントロールします。たとえば、大盛りのこってりラーメンと野菜がたっぷりのサラダを食べるのかの2択があったとします。前者は自分にとって快楽をもたらしますが、脂質も多く、肥満につながります。つまり、短期的な利益になる選択肢です。一方、後者は自分にそれほど快楽をもたらしてくれるわけではありませんが、健康には良い食べ物です。長期的な利益になる選択肢と言えるでしょう。

 

チューリッヒ大学のハレ博士らによって、こういう場面において、長期的に利益になる選択肢をした場合、ブレーキである外側前頭前野が報酬系回路の活動を抑えることが示されています。つまり、こってりしたラーメンを食べたいという気持ちを、前頭前野が抑止しているのです。まさにブレーキの役割をしているのです。

 

しかし、この前頭前野はストレスの影響を受けやすいことが知らされています。ストレスでブレーキが利きにくくなるのです。たとえば、とても大変な仕事をしているときなど、ストレスがかかり、精神的に追い詰められているとき、ついつい普段は手を出さないようにしているビールやケーキに手を出してしまうことがあります。ストレスがかかったときのドカ食いも、ストレスによって前頭前野が働きにくくなり、その結果として目の前の報酬である食べ物に手を出しやすくなったことが一因です。

 

では、そういったとき脳ではどういった現象がおきているのでしょうか。