過去の反実仮想

ゴプニックは赤ちゃんでも未来の予測ができる反実仮想ができると言っていました。では、過去のものはどうでしょうか。「もし」「たら、れば」でも、予測できるのでしょうか。は幼児の行動を観察して推量した実験から見えてきたようです。この実験が行われたころにおいても、幼児は反実仮想ができないものと思われており、それはごく最近までそうだったようです。しかし、なじみ深い話題であれば、2・3歳の幼児も、現実世界と異なる世界を生き生きと思い描けることが分かってきたそうです。

 

英国の心理学者ポール・ハリスは幼児の空想力についてはエキスパートです。彼はイギリスの田舎の童話を子どもに語りかけます。そして、そのあと、未来と過去の反実仮想を促す質問をしてみました。いたずらアヒルのダッキー君が、どろんこの靴を履いたまま台所に入ってきます。ダッキーが台所を歩いたら、床はどうなるだろうか?きれいになる?汚くなる?長靴を洗ってから入ったら、どうだろう?と質問します。すると、3歳児の子どもでも、ダッキー君が靴を洗えば、床は汚れないということを、正しく答えられました。

 

こういった実験はゴプニックも行ったそうです。正しい順位並べるとストーリーが完成する紙芝居のようなカードを作りました。それぞれのカードには「女の子がクッキーの入った瓶のところへ行く」「瓶のふたを開ける」「中をのぞく」「クッキーを見つける」「喜ぶ」といった連続した場面が書かれています。まずはこの一連のカードを見せます。続いて、これと別に「クッキーが入っていない瓶を描いたカード」と「お腹を空かせて悲しそうな女の子を描いたカード」を見せました。最初の組のカードを正しい順番に並べ、どんなお話か、子ども自身に語らせました。続いて、「それじゃ、女の子が悲しい顔をしていたらどう?」といって、最後のカードを悲しげな女の子の絵に取り換えます。そして、「どうしたのかしら?」と尋ねます。すると3歳の子どもたちはその結末にあうようにカードを動かし始め。クッキーが入った瓶の絵を空っぽの瓶に取り換えたのです。つまり元のストーリーにはない過去を想像し、推論によって新しいストーリーを完成させたのです。

 

この二つの実験を見たときに割とよくある話だと思いました。幼児期だと、特に発表会の取り組みの中でこういったやり取りは多くあるように思います。「このとき○○はどんな気持ちだっただろうね?」とか「なんでこう思ったんだろう?どうしたらこうならないかな?」と子どもたちにセリフを決めさせるときに語りかけの中で、実験にあるようなやり取りが行われているように思います。ただ、最近まで、子どもたちが想像し、それが現実と区別されることで、現実を変えることを役立てる見通しを持つ力を持っているということが考えられていないということの方に驚きを感じます。

 

ゴプニックはさらに子どもたちのごっこ遊びやままごと遊びにも反実仮想が生かされており、反実仮想ができなければごっこ遊びができないとまで言っています。それは、どういったことなのでしょうか。