言葉を介したコミュニケーション

人の脳は進化の過程で大きくなってきましたが、なぜ、エネルギー消費の大きな脳を持つ必要があったのでしょうか。このことには諸説ありますが、20万年前から10万年前にかけて現生人類のルーツとされるネアンデルタール人がアフリカに出現しました。その後、10万年前に現生人類の祖先であるホモ・サピエンスが出現し、ネアンデルタール人としばらくは共存することになります。その後、ネアンデルタール人は3万年前に絶滅。ホモ・サピエンスは6万年前からアフリカを離れ、グレートジャーニーといわれるたびに出て、5万年前ごろには世界に広がっていきます。日本に到着したのは3万8000年前と推定されています。4万年前から1万年前には、現生ヨーロッパ人の祖先とされるホモ・サピエンス種のクロマニヨン人が現われ、言葉など多くの文化を創り出しながら現在に至ります。

 

ネアンデルタール人とホモサピエンスとの交配はなかったようです。しかし、ネアンデルタール人は現在のヒトに比べると脳波100㏄も大きい平均1520㏄の脳を持っていたそうです。そして、それだけ大きな脳を必要としたのは、高度の狩猟技術を生かした肉食中心の食生活をしながら、不自由な仲間を助けるなど、仲間を気遣い、食物を分け合い、火を用いて調理するなど、多くの仲間と協力し、共同で生活するために、高度な社会性を必要としていたからではないかと紹介しています。

 

ではなぜ、それほど大きな脳を持っており、共同するくらい社会性もあったネアンデルタール人であるにもかかわらず、絶滅してしまったのでしょうか。諸説ありますが、門脇氏はこのことに対して、言葉のコミュニケーション能力が不足していたからではないかといっています。そして、このちょっとした差によって絶滅したというのです。

 

「心の先史時代」を著した考古学者瑞マンはヒトの脳の知識には➀博物的知能:道具やシンボルを用いる能力 ②技術的知能:仲間の行動や心の動きを解釈し理解する能力 ③社会的知能 といった3つのモジュールがあり、状況に応じて、瞬時に作動し、適切に行動し、問題を解決できるようになるといっています。そのため、情報処理装置ともいえる脳が、それぞれの部位をいかに連結させ迅速に作動させるかが生き抜いていくためには必要になってきます。そして、それらを効率よく使うことでコトバが使えるようになります。ネアンデルタール人はこういった能力差が厳しい環境を生き抜いてく中で問題となり、絶滅に至ったのです。

 

裏を返せば、血縁者であれ、仲間であれ、社会や集団を形成し、食料の確保や性交渉などに伴うトラブルを回避し、協働を持続するための意思疎通をしっかり行うためには、コミュニケーション能力は決定的に重要なのです。結果、言葉の常習化、文化の学習、社会組織の拡張、社会性の洗練(高度化)、社会脳の性能アップといった生存を支える循環が人の進化を支えてきたといえると門脇氏は言います。

 

言葉の発達というのはヒトの生存戦略に大きな影響を与えたのですね。それは逆に捉えると、言葉を使ったコミュニケーションが人間の一番の特徴とも言えます。今の時代はどうでしょうか。高度でよりグローバルになった世の中において、こういったコミュニケーションはどれほど起きているのでしょうか。特に最近は新型コロナウィルス感染症による人との接触が制限されたことは人に大きな影響を与えることになったかもしれません。事実、最近、園に入園してくる子ども多くが言葉に何らかの問題を抱えている子どもが多いように思います。このことを考えると、特に人と関わることというのはなによりもの教育になるのかもしれませんね。