虐待と育児不安

小西氏は「児童虐待」にも言及しています。虐待とは身体的な暴行を加える身体的虐待、食事などを与えないなど、子どもの成長に必要で適切な養育を与えないネグレクト、性的行為を強要される性的虐待、子どもを無視することや拒否するといった心理的虐待のことをいいます。これらの虐待の程度は様々でありますし、いくつかの形態が重なっていることも多いです。そして、こういった虐待は親の孤立が招く最悪のケースだと小西氏は言っています。つまり、子どもへの虐待行為に及ぶ親は、次第に周囲との関係が希薄になり、閉鎖的になり、やがて関わりを断つようになります。そういった親の環境が児童虐待につながるのではないかというのです。

 

『新・保育士養成講座/養護原理』には「虐待を受けた期間や程度は重なっても、そもそも虐待体験自体が子どもの成長にとって破壊的なダメージを与えるものであり、子どもに対する心理的・発達的影響は計りしれない。虐待環境から逃れられても、その体験は子どもの心の中に依然として存在し続け、子どもを痛め続ける。虐待体験の影響は時間がたてば自然と消えるというものではなく、適切な治療的援助が与えられなければ、大人になっても様々な行動・対人関係上の問題を引き起こし続けることになる」とあります。小西氏はこの言葉ともう一つ、「乳幼児への暴行は脳に直接損傷を与える行為である」ということを付け加えたいと思っているといっています。これは直接的に暴行などで脳に損傷を負わすというだけではなく、虐待によって子どもが受ける衝撃やストレスが精神的に不安定にし、減食などによって脳の発達を阻害するということも含まれているのです。虐待は「トラウマ」を生むといった心の傷がよく言われますが、脳のさまざまな損傷についても、研究がされており、乳幼児の記憶に限らず、子どもん発達に多大な影響をあたえることが言われています。

 

このように児童虐待は社会問題としてもかなり大きな問題になっていますし、CMでも「見て見ぬふりはやめよう」といったことが叫ばれています。そのため、虐待件数や相談件数は増加を見せ、行政はアンケート調査や家庭訪問を実施し、虐待撲滅を行っています。しかし、小西氏はこういった行政の虐待撲滅の活動や「リスク因子の高い親」を探しあて、親を追い詰めたところで解決できないのではなかと言っています。

 

これに関しては、私も同意見です。こういった周囲の環境による「追い詰める」環境がより虐待を助長しているのではないかとすら感じます。このことについて小西氏は「虐待は相談相手がいない。周囲から十分な理解が得られないなど、『実際に体験してみなければ、けっしてわからない世界』とまで言われる育児の状況を作り出している社会全体のあり方が関係している」と言っています。私の周りでも、決して虐待はしていないのですが、通報されたという現象は起こっています。

 

社会は豊かになって、便利な世の中になっていますが、地域の交流や人との関わりは希薄になってきています。虐待においても、早期発見や早期処理が行われているわけではなく、調査と監視が強化徹底されています。地域で支えていくものではなくなっており、結果として、責任は親に向かい、親は安心して育児が出来なくなっている環境になっているのです。

 

社会全体で今日の育児不安や不満の解消につながることを行っていかなければいけないのではないかと小西氏は言っています。