実験と遊び

前回は乳児でも簡単な実験を行っていることを紹介していました。幼児の実験に関してはブリケット探知機のような装置を使って行われる実験がほかにもありまが、そのどれも子どもたちは明確に装置の仕組みを理解し、因果関係を理解していきました。ブリケット探知機のような装置で子どもがあそんでいても、すぐに構造を理解してしまうというのは保育をしていてもよく見る姿です。子どもたちは夢中で調べ、挑戦します。ゴプニックは1歳児を捕まえて、おもちゃを30分遊ばせ、その間にその子がやった「実験」を数えたら、それだけも発達心理学のレポートが書けるはずだと言っています。それほど、子どもたちは日々の遊びの中で実験をたくさんしているというのです。

 

では、なぜ、幼児の探求心はこれほど旺盛なのでしょうか。なぜ、世話をされることが必要な子どもたちが、莫大な労力と時間を「実験」に費やすのでしょうか。「実験」をすることは世話をされることには直結しませんし、逆に自分が危険な目に遭いかねません。現に怪我をする場合も多々あります。ゴプニックはこのことは「幼児期の人間とは因果学習をするマシンなのだ」と考えれば、このことも納得がいくと言います。実験は、知らなかった因果関係を発見し、理解するのに最適な手段なのだからというのです。

 

遊びが学習につながるというのは、よく言われますし、自園でもよく使う言葉です。ブリケット探知機などの研究は、直観的にわかっていたことを科学的に裏付けたものです。空想的遊びが可能性を探求する心を育てるように、探索的遊びは因果学習に役立つのです。このことは早期教育において遊びを排除するという人にとってはこの点をもっと理解してくれるといいのですがとゴプニックは言います。

 

これまでの内容においても、実験を通じて物事を深く知ろうという探求心は生まれつき備わっているもので、私たちはその衝動の下に未知の世界を学習していきます。それは常に新しい情報を習得するプログラムが内蔵されていると言い換えても良いのではないかというのです。幼児のする「実験」も科学者による実験も、それまで知らなかった自然の姿を明らかにするのです。

 

ここに最近、STEM教育などで言われる「科学する力」につながっていくのですね。子どもたちが外的世界に自ら働きかけることは、自分自身の内的世界を育てることにも繋がるのです。そして、その中心となる部分に「主体性」というものが多く関わってきます。子ども自らが世界に働きかけることで、このような「実験」が行われていくのです。大人主導で答えを教えるようなことでは、探求心や好奇心は育たないというのはこういった研究の様子を見ていても明らかです。だから、遊びを活発化させる「環境を作る」ことが重要なのです。そして、乳幼児期においては「指導」ではなく、「支援」が大切であり、重要であると言われる所以なのだと分かります。