反実仮想と因果関係

これまでの説を考えてみても、人間の子どもも幼いころから大人と同じように過去、現在、未来の可能世界を絶えず、思い描いていることが分かります。そして、それは進化上、明らかな利点であることが分かっているとゴプニックは言います。では、次に反実仮想はどのような心の動きによって起きているのでしょうか。どのようにして、現実に今ここにないことを思い描き、それを現実に変える方法を知るのでしょうか。そのためには何が必要で、どんな可能性がどんな状況で実現するというのでしょうか。

 

それを解く一つの鍵が「因果関係」の考え方であるそうです。「因果関係」つまり、何かが起こるにはその原因があるはずであるという考えです。この考え方は古くから哲学のテーマとしてありました。私たちは悪いことが起きたとき、悪いことは続くと考えるばかりではなく、その背後にある因果関係を探り、それに納得します。反実仮想が、そのような因果関係と密接に関係していることを指摘したのは、アメリカの哲学者デヴィッド・ルイスでした。

 

では、反実仮想と因果関係の考え方はどのように関係してくるのでしょうか。例えば二つの出来事の因果関係が判明したとします。すると、一方を変えれば他方も変わることが予想できます。このことをゴプニックはタバコとがんの発生の因果関係を例に出して説明しています。彼女はタバコとがんの因果関係を知ったとして、がんを減らすために自分で禁煙運動を始めるという可能世界を想像します。その世界で、彼女は禁煙広告や規制法。ニコチンパッチの発明といった対策を考えます。すると、これらを実行することでがんが減ることが因果関係の知識から予測できます。逆に過去の可能性を思い描くこともできます。もし、たばこ産業があれほど抵抗しなければ、もっと多くの命が救われたということを示すことができるからです。

 

このように因果関係の知識を持つことで、ある特定の方向に世界を変革する意図的な働きかけを可能にするのです。意図的な介入は予測とは違って、思い描いた未来の実現に向けて世界に実際に働きかけるのだとゴプニックはいいます。しかし、因果関係の知識がなくても、周りの世界への働きかけが成功する場合があります。それが「模倣」です。たとえば、以前の実験にもあったリングを通す実験ですが、これを母親が実演すれば、穴をふさいだリングは某に通せないことに気づくことがあります、大人でもこういった模倣は例外ではありません。たとえば、頭痛を訴える患者がいて、医者は患者がアスピリンを飲むと痛みが治まると聞けば、それを参考にして診断を行うというのです。つまり、自分や他人の経験から得た知識は同じ状況にぶつかったときに役に立つのです。

 

このことを受け手も、赤ちゃんが十分に因果関係を理解していることを分かります。なぜなら、0歳児クラスにいる赤ちゃんでも、1歳児クラスの子どもたちの様子を見て、汚れ物袋を自分で片付けに行ったり、子ども同士のやり取りをしっかりと見て、モデルにして模倣までしているところをみることがあるからです。真似ができるということはそれだけ因果関係も理解しているということが言えるからなのですね。