ペリー就学前プロジェクト

前回、紹介したように非認知スキルというのは社会生活において、非認知スキルが必要とされる場面が多いことが分かります。IQがいくら高くても、それを社会で生かすことができなければ宝の持ち腐れになりかねないのです。

 

OECDもこの非認知スキルの重要性を強調しているのですが、なぜ、この非認知スキルが注目されているのかというと、このスキルが変化しやすいためだからです。IQは基本的に安定してものであり、生涯を通じてあまり変化しないといわれています。子どもの頃にIQが高い場合は、大人になってもIQが高いことが多いのです。一方で、非認知スキルは教育や子育てによって変化する可能性があります。このことを示す証拠として、アメリカのミシガン州における幼児教育計画である、ペリー就学前プロジェクトがあります。これはポール・タフ氏の著書の中でも以前紹介しましたが、これはアメリカのミシガン州における幼児教育計画です。

 

貧困層の子どもを支援することを目的としたもので、貧困層の子どもたちは、家庭に問題を抱えていることが多く、教育も十分に受けられません。そのため、学力が低いことが多く、学校を中退したり犯罪に走ったりするなどして将来に様々なリスクを抱えていたのです。そこで、そういった子どもたちに対して、早い時期から質の高い教育を施すことで、子どものIQを支援するためのプロジェクトが始まりました。そこでは、貧困層の子どもたちを2つに無作為に分け、一方には質の高い幼児教育プログラムを施し、もう一方にはそのようなプログラムを施さなかったのです。そして、プログラムを受けたグループでは、子どもたちは毎日プレスクールに通い2時間半の授業を受け、週に一度の家庭訪問を受けました。

 

その結果、プログラムを施した直後は、プログラムを受けたグループの子どものIQは受けていないグループの子どもより高くなっていました。この結果だけを見ると、IQは教育によって育むことができるようにも思えます。

 

ところが、10歳頃にはプログラムを受けたグループと受けていないグループのIQの差は見られなくなったのです。つまり、プロジェクトにおける幼児教育は長期的にはIQを高めることができなかったのです。森口氏はこの結果は、日本における数多ある「IQを高める」幼児教育スクールにも疑義を投げかけるといいます。IQを一時的には高めることができても、その効果は後に持続しない可能性があります。一時的に変化したように見えても

それは見せかけに過ぎないのです。

 

では、乳幼児教育というのは行っても意味のないことなのでしょうか。子どもが就学前に教育や保育を受けることは意味のないことなのでしょうか。ペリー就学前プロジェクトはIQを高めることには至らなかったですが、非認知スキルにおいては大きな影響が見えてくることが分かってきたのです。