他の動物の実行機能

では、人間と動物と比べたときに、人間はかつてのキリスト教のように特権的な地位にあるのでしょうか。この点について、最近面白いことが明らかになってきました。その大きな一つの要因は「人間とそれ以外の動物」という構図は成立しないという点です。デューク大学のマクリーン博士を中心とした国際研究チームは、36種の動物の実行機能を比較しました。

 

この研究では、、非常に簡便な方法で様々な動物の実行機能を測定しました。まず、3つの箱のようなものを用意し、その動物にとって魅力的な食べ物を1つの箱(箱A)に隠し、探させます。これ自体はどの動物にとってもそれほど難しいことではありません。これを3回繰り返します。そして、その後にテストをします。その後にテストを行います。今度は箱Aに一度食べ物を隠した後に、そこから取り出して別の箱Bに隠します。動物は、箱Aを探して成功する経験を3回しているので、箱Aを探すという行動が選択されやすくなっています。この行動を選択せずに、正しく箱Bを探すことができるのかを調べます。

 

人間では、1歳前後の赤ちゃんでも正しく箱Bを探すことができます。ほかの動物はどうだったのでしょうか。その結果、チンパンジーやオランウータンなどの霊長類は、ネズミなどのげっ歯類や鳥類に比べて、成績が良いことが示されています。また、さまざまな種類の食べ物を食べる動物のほうが、そうではない動物よりも、自分をコントロールする力が強いことも示されています。全体的に、実行機能は、脳の大きさと関係があったようです。この研究で最も脳が大きい動物である像は例外だったようですが、それ以外の動物では、脳が大きければ大きいほど、実行機能が高いのです。

 

チンパンジーは実行機能が高いといわれていますが、それでも人間と同レベルというわけではありません。別の研究から明らかになっているのは、人間の実行機能はやはりチンパンジーよりもかなり高いということです。目の前においしそうな食べ物がある場合に、チンパンジーは誘惑に抵抗することが難しいことが繰り返し示されているのです。

 

トマセロ博士らのグループは、チンパンジーの実行機能を人間の子どもと比較しました。その結果、チンパンジーの成績は人間の3歳児と同じくらいであることが報告されています。また、人間の実行機能は3歳以降に劇的に変化するということがわかったのです。このことを見ていても、実行機能はほかの動物にもあることは分かりますが、人間においては特に発達している能力であると結論付けられると森口氏は言っています。

 

ここから森口氏は実際にこの実行機能の自己をコントロールする力がいかに大人において、行動に影響を与えるかを考察しています。これは昨今のIQや成績、学力偏重になってきている教育現場において、大きな問題提起を投げかけています。そして、それは乳幼児教育において、とても重要な意味合いを持つことが同時に分かります。