伴走者

では、具体的に「コーチング」はどういうことをしていくのでしょうか。まず、コーチングにおいて最も大切なのは「発見を促す」ことです。「相手の中にある、相手さえもそこにあると気付いていない内側の情報を『一緒に探索』して見つけていくことである。そして、『共に発見』した情報を、未来に向けた新たな行動の指針となる知識に変えていく」ことと鈴木氏は言います。つまり、「探索の伴奏者となってくれる人が一人いるだけで、その人の人生はずっと力強いものになる」というのです。

 

このことはよく不良少年を更生させていくプロセスでもよくあるということを聞いたことがあります。主体的にポジティブな考え方を持とうとした時に考え方を変えてくれる。または見るベクトルを変えてくれる人の存在というのは大きい存在であると感じたことはないでしょうか。私自身もネガティブに物事を考えてしまうことが多かったのですが、そのたびに他の人からの意見などをもらい、その時にただ、同調されるだけであるよりも、考え方を変えてくれるアドバイスが非常にありがたかったりします。また、「探索の伴走者」ということが大事なのでしょう。あくまでその走っている主体は本人であり、解決も本人が行わなければいけないのです。そのため、伴走者となるアドバイザーは相手を走らせなければいけないのです。とって代わってあげることはかえって「お節介」なのです。

 

では、コーチングにあたり、どういったことから始めていくといいのでしょうか。初めはまず「通りがかりの一言」が大切なようです。「ありがとう」や「おはよう」といった挨拶をはじめ、こういった当たり前の一言にどれだけ気持ちを込めれるかが大切なのです。次に「そうなんだね」「そういうふうに考えたんだね」と相手の発言を自由にする。そして、「それで」「それから」と話の細部にまで関心が生まれることで「もっと聞かせてくれよ」とまた、質問をするのです。こうしていくなかで、「受け取って、受け取ったことを伝え、促し、質問する」この過程をくりかえすことで、相手は徐々に自分を探索の伴走者として認め、実際に発見が促されていくと言います。

 

大切なのは「まだ、十分に探索されていない目の前の人の能力や気持ちや考えを、一緒に『発見してみよう』そう思った瞬間に、あなたはその人にとっての、その主観における人生最高のパートナー(コーチ)となるのです」ということです。

 

よく「傾聴」と言います。以前読んだ、メンタルヘルスの本においても、「シンクシビリティ」においても、同様のことが言えます。まず相手の様子を見て、相手の気持ちに寄り添い、聞く、傾聴していく姿勢は相手とのコミュニケーションにおいて、最も重要な要素なのでしょう。私はどちらかというと経営者的な目線でこの本を読んでいますが、これは保育においても、意外と見落としがちなように思います。子どもたちの保育の中で気持ちを聞く時間というのは最も重要な時間であると自分は思っています。もちろん、カリキュラムや活動に追われることもあるでしょうし、思ったよりも、時間がかかることがあります。しかし、この「傾聴」され「認められる」ことは長い目で見たときに大きな信頼関係を生むように思います。このプロセスは大人だけではなく、子どもにおいても必要な姿勢だということがあります。まずはやはりこういった「聞く」ということから始めることが大きな一歩となりえるのですね。