4月2022

コンピテンスの概念の特徴から、未来の能力

コンピテンスの概念の特徴の二つ目は文脈に即したアプローチです。これは「ある状況の中で求められていることに呼応した行動を重視する能力」と捉えられています。どういうことかと言うと、これから先AIなど社会の変容が予想されています。しかし、そんな社会と、例えば、無人島とでは、当然その環境は大きく違います。無人島ではAIの知識やリテラシーはまったくもって役に立つものではありません。これと同じように日本社会とアメリカ社会の比較でも同じようなことが言えます。日本社会においては「空気を読む」といったことや「他者に合わせる」と言ったことが重視されます。しかし、アメリカ社会では「自らの意見を明確に伝える」ことこそが重視されます。つまり、文化や社会の違いによって、必要とされる知識や技能といったコンピテンシーは変わってくるのです。

 

そこでコンピテンスからキー(鍵)となるものを抽出するということがDeSeCoプロジェクトの中で行われ、一定の基準が設定されました。

 

・学習可能であること(一定程度、教育可能である)

・様々な文脈(環境や文化)における重要で複雑なニーズを満たすために役立つこと

・誰にとっても重要であること

・メタ認知(認知していることを認知する。自己評価や自己分析)など高次のスキルを含むこと

・社会的に高い価値が認められる結果につながること

Ex、「個人のレベルでは、雇用、健康、安全、政治参加、知的な資源の獲得、社会的ネットワーク、文化的活動への参画など。」「社会レベルでは、経済的な生産性、民主主義的プロセス、社会的連帯・結束、人権、安全、公平、平等、持続的な環境など」

 

これらは、どのような文脈においても、適応できる汎用性の高いコンピテンシーを特定しようとしたものです。つまり、行動や活動の「そもそも」といったところでしょうか。ここでは木工やプログラミングを例に出しています。「木工で椅子を作る」といった具体的なコンピテンシ―ではなく、創造的思考力(どんなものを作るのか)や批判的思考力(どうやったらうまくいくのか)といったより抽象的なコンピテンシ―の方がどのような状況であっても能力を発揮することにおいて生かされる力となるのです。こういった汎用性の高い力を重視しています。

 

このような基準を作るにあたっては、国際的に受け入れられている規範として、国際人権宣言やリオ環境宣言などの国際的な取り決めの協定などが参考となっています。こういったプロジェクトにおいて、各方面・各分野からの意見をもとに理論的な貢献をふまえ、最終的にキー・コンピテンシーと特定されたものが「異質な人々から構成される集団で相互に関わり合う力」「自律的に行動する力」「道具を相互作用的に用いる力」の三つとされました。

 

そして、このキー・コンピテンシーの枠組みには「省察・振り返り」がおかれており、これは「メタ認知的な技能(考えることを考える)、批判的なスタンスを取ることや創造的な能力の活用である」と考えられ、複雑化する世界において、「自律と連帯」「多様性と普遍性」「変革と継続」といった相反する問題や考えを乗り越えていくといった「総合的なつながりや相互関係を配慮して、いっそう統合的な考えで考え、振る舞う」といったことを必要としています。

 

確かにこれから多様化し、複雑化し、今の世の中で当たり前のものが変わってきたり、今ないものが当たり前になってくる社会に適応していくことにおいては、これまで以上に柔軟な能力がなければ活躍する人材にはなっていけません。つまり、21世紀型の教育というものはこういった目に見えない想像もしえない未来に向かっていく力といえるのです。

コンピテンスの定義と概念

OECDはDeSeCo(コンピテンシーの定義と選択)プロジェクトにおいて、PISA(生徒の学習到達度調査)やPIAAC(国際成人力調査)といった国際的な調査の理論的な根拠となることも期待していました。つまりPISA型の学力観にはどういった理論的根拠に基づいているかということが疑問になってきたのです。そのため、DeSeCoプロジェクトのテーマは「豊かで責任ある人生につなげ、現在や将来の課題に対応していくためには、どのようなコンピテンシーが必要とされるか」とされた。そしてそれは、「コンピテンシーとは何か」「どのようなコンピテンシーがより重要か」という課題ではなく、もっと大局的な視点が必要とされ、学校教育だけではなく、生涯学習の視点も含めて、コンピテンシーの枠組みを示すことが期待されていたのです。

 

では、実際、コンピテンシーとはどのような考え方が定義されたのでしょうか。まず、DeSeCoでのコンピテンスについての定義は「知識(認知的、メタ認知的、社会・情動、実用的)スキル、態度及び価値観を結集することを通じて、特定の文脈における複雑な要求に適切に対応してく能力」としています。つまり、これは以前にも書いた通り、コンピテンスとは、知識やスキルをつけることではなく、それらの考えを結集し、どのように駆使してこれからの複雑な社会に向けて「対応していく力」とするかという点にあるのです。

 

そして、その概念の特徴として①統合的な視点に立つこと ②文脈に即して捉えること といった二つのアプローチをコンピテンシーの概念の特徴として挙げています。

 

➀統合的なアプローチというのは個々の知識やスキルを必要な場面で結集して、発揮していくことです。自分が持っている知識をただ持っているものをただ持っているだけではなく、発揮していくためには、それをどう使うのかということが求められます。たとえば、自分自身が特定の知識を持っていて、それを発表するとしたとします。しかし、そこでPCを駆使して、資料を作れなければいけません。そのために、文章をタイピングできなければいけません。文章の構成や知識を説明するための下調べをするために論文を収集する能力やインターネットを駆使した情報収集能力も必要になってくるでしょう。ただ一つ「知識を外に出す」と言っても様々な能力を必要とします。それぞれの活動において、それに適した能力を必要に応じて活用していくことが重要になってきます。このように必要な力を組み合わせて活用していくというコンピテンシーの統合的な性格が一つ目の統合的なアプローチです。

 

次に②文脈に即したアプローチがあります。これは「ある状況の中で求められていることに呼応した行動を重視する能力」と言われてるものです。