赤ちゃんの脳の変化

子どもは6歳になるころには、自伝的記憶、実行制御(機能)、内なる監視人の基本的な機能が出来上がり、意識体験も大人とほぼ同じになるとゴプニックは言います。では、この内部意識の変化はどうして起こるのでしょうか。これには子どもの言語能力によるものが大きいようです。というのも、自伝的記憶と自己制御は、言語能力とともに発達するのです。言葉を使うことで、あったこと、するべきことを、他人だけでなく、自分にも言い聞かせられるからです。大人は言語能力が十分発達しているので、出来事に対して、内語を盛んに使います。頭の中で、言葉にして表現するのです。しかし、フラベルの研究では子どもはその内語をほとんど使わないらしいことを示唆しています。

 

このように言語は、大人の内部意識において、大きな役割を果たします。自分の「うちなる声」に叱られ、せかされ、指示され、説き伏せられます。このことについて、哲学者ジェリー・フォーダーはあるエピソードを紹介しています。「哲学の文章を書いているとき、意識の流れはどんな感じですか?」と聞かれ、彼は「がんばれジェリー、君ならできるぞ、ジェリー、その調子だ、ジェリー」と答えました。大人はこのように、内語を使っています。しかし、子どもの場合は少なくとも口やかましい内語は使わないし、聞いていないようです。目標に向かって彼らをせきたてるのは、内語よりも親の生の声だというのです。

 

大人と子どもの内部意識の違いは、外部意識の違いもそうだったように、大きな目で見れば一種の役割分担だとゴプニックは言っています。つまり、子ども特有の意識は、子ども特有の課題に対応しているというのです。それは、外部意識のときと同様に、子どもにとっては、そのころはより多く、より早く世界を学ぶことが目的だからです。このことを中心に考えると、情報源を忘れる「出典健忘」と、そのために生じる被暗示性も説明ができるというのです。信念をスピーディーに更新するには、古い信念や出所は捨ててしまうほうが効率がいいのです。

 

その中でも、乳幼児は顕著なようで、乳幼児期の学習は迅速で、貯えた知識が数カ月ごとに入れ替わり、しかも3歳から4歳の間に、おおきなパラダイム交換、つまり、捉え方が大きく変わります。この変化は子どもの成長の中で、様々におきています。例えば、以前紹介したように、子どもたちが絶え間ない学習によって、世界の因果マップを描いていくようになったり、発達心理学では、生後9ヶ月から12カ月の間に物の概念が、3歳から5歳にかけては心の理解ががらりと変わると言われています。子どもの時代においてはたったの2、3か月で世界像を総入れ替えできるのです。大人でそんなことができるとしたら、よほど柔軟で革新的な心を持つ人であって、それでもせいぜい2,3度起きることではないかとゴプニックは言っています。

 

大人で表してくれているのは面白いですね。赤ちゃんの脳の中で起きているのことを考えると赤ちゃんがいかに天才的な脳を持ち合わせているのかということが分かります。こうやって短期間の間に非常に高度な知識を取り込み、自分の世界を作り上げているという脳の構造のすごさを感じます。確かにこのことをみていくといかなる高性能なコンピューターでもできないことを赤ちゃんはやってのけているのですね。