研究から見えたもの
母親の愛着のある関わり方で子どもが将来困難から粘り強く対応できるようになるレジリエンスの力を育てることができることがエインズワースの研究をはじめ、スルーフとエゲランドがミネソタで行った研究で分かってきました。そして、このことは貧困な生活において、逆境を受けた子どもたちを救う方法として見えてきたのですが、しかし、これを実現していくことはそれほど単純なことではありません。
そのことをサンフランシスコの心理学者アリシア・リーバーマンは言っています。彼女はカルフォルニア大学サンフランシスコ校で「心的外傷を受けた子どもへの支援プログラム(CTRP)」を運営しています。そこでミネソタで行ったスルーフとエゲランドの研究を高く評価している反面、この分析からは二つの重要なアイデアが抜け落ちているというのです。
一つ目は以前紹介したベイビュー・ハンターズポイントのような地区では子どもとの安定した愛着関係を結ぶのは非常に難しいことがあるというのです。つまり、愛着関係を研究するにはそこにある地域性もあるというのです。「よくあるのは、母親の人生を取り巻く環境が、本人のもともともっている対処応力ではとても太刀打ちできないケースです」と言っています。彼女のクリニックに来た親の様子から「ひどく貧しかったり、絶えず先々への不安があったりして打ちのめされているとしたら、そんなときに安定した関係を育む環境をつくろうだなんて、スーパーマンでなきゃ無理」と言っています。さらに、母親自身の過去の愛着関係の欠如が子育てをより困難にしている可能性もあるというのです。新しい母親が子どもの頃に不安定な愛着関係を経験している場合には、自分の子どものために安定した育児環境を整えるのが飛躍的に難しくなるというのです。
二つ目は「過去の心的外傷やアタッチメントの不全は克服できるという事実がミネソタの研究では十分に強調されていない」ということです。彼女は不安定な愛着関係を生む接し方を、健全に機能する安定した関係を育む接し方に変えることは可能だと言います。この変化を自分で達成することのできる親もいるがたいていは助けが必要になる。そして、その時の助けこそ、リーバーマンが取り組んできた仕事なのです。
この2つにおいて、確かにハンターズポイントのような地区はかなり特殊であり、日本においてこのことが合致するような地域というものはあまりなく、研究対象に偏りがあることはとても気になります。また、2つ目の不安定な愛着関係を生む接し方を、健全に機能する安定した関係を育む接し方に変えるというのは今の時代非常に需要があります。実際に自園でも保護者に対する育児支援やカウンセラーの需要はありますし、どの園でも保護者支援というものの課題はついて回ります。
では、リーバーマンはどのようにその支援や提案を行っていくのでしょうか。
2020年1月31日 5:00 PM | カテゴリー:乳幼児教育, 教育 | 投稿者名:Tomoki Murahashi