GEDから見えてくるもの
経済学者のジェームス・ヘックマン氏は高校修了同等資格(GED)のデータベースを分析した結果、多くの重要な点でGEDテストの合格者は高校の卒業生とまったくおなじようにより高度な学問への準備ができているという考え方が妥当だということが分かりました。というのも、学力テストの得点(IQと密接な関係にあるスコア)を見ると、GEDテスト合格者はふつうに高校を卒業した者に全く劣らなかったのです。
しかし、その後の高等教育まで見てみると、二者は似ても似つかなかったのです。ヘックマンが気付いたところによれば、22歳の時点で四年制の大学に在学中か、すでに何らかの高等教育を終えている若者は、GED取得者では3%しかなかった。これに対し、高校の卒業生では46%に上りました。また、将来的に生じうるあらゆる重要な数字(年収・失業率・離婚率・違法ドラッグの使用率など)についてみると、GED取得者は価値があるはずの特別な証書を獲得したにも関わらず、中退者とそっくりな結果が出た。
この結果は望ましい結果ではないにしろ、政策を考える上では有益な発見だった。人生を改善する手段として長い目で見たときに、GEDは本質的に役に立っていなかった。どちらかといえば若者を安易な中退へと誘導するマイナスの効果があったのかもしれない。ヘックマンは多くの経済学者同様、ある人物の先ゆきがどうなるかを考えるときに信頼のおける決定要素は学力だけであると信じていました。しかし、実際これらの結果を受けると、たとえテストの得点がよくても人生になんらいい影響のない人々のグループ(GEDテストの合格者たち)があることを発見してしまったのである。
ヘックマンはこのような結果になったのは、高校の卒業生が最後まで学校に残るために必要だった心理上の特質にあるとヘックマンは結論づけた。では、そういった特質(報われることの少ない退屈な作業にあたるときの粘り強さだったり、喜びや楽しみを先送りにできる能力だったり、計画に沿ってやり遂げる傾向だったりするわけだが)は大学でも、職場でも、人生全般においても価値のあるものだった。ヘックマンはあるレポートにこう書いている。「GEDは意図せずして、頭はいいが粘り強さと規律に欠ける中退者と従来の中退者を区別するテストとなった」そして、GEDテストの合格者は「先のことを考える能力や作業にあたる際の粘り、環境への適応能力を欠いたただの物知りである」
高校をちゃんと卒業してから大学に行った生徒とGEDテストで高校修了資格を取得した生徒では、成績においては同じだったとしても、その後の人生においては大きな違いが見られたのですね。そして、その問題において、ヘックマンは学校に残るために必要だった心理上の特質に意味があるということを言っています。それが「非認知スキル」というものなのです。では、このスキルはどのようすれば伸ばすことができるのでしょうか。