包括的性教育

ユネスコは、科学的根拠に基づいたアプローチとして「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を示し、そこでは8つの学習領域が掲げられています。具体的には、①人間関係、②価値観・人権・文化・セクシュアリティ、③ジェンダーの理解、④暴力と安全の確保、⑤健康とウェルビーイングのためのスキル、⑥人間のからだと発達、⑦セクシュアリティと性的行動、⑧性と生殖に関する健康です。これらを見ていくと、性教育は単に「性の知識」を伝えるものではなく、社会的規範や人権、多様性、暴力防止など、より広い社会づくりに関わる内容を含んでいることがわかります。

私自身の経験を振り返ると、学校で受けてきた性教育は「からだの仕組み」や「妊娠・避妊」といった⑥と⑧に偏っていた印象が強く、「ジェンダー」という言葉に触れることはほとんどありませんでした。つまり、ユネスコが強調する包括的性教育の多くの領域は、自分が学んでこなかった分野であると感じます。

では、こうした包括的性教育を乳幼児期にどう落とし込むかを考えると、単純な知識の伝達では難しい部分も多いでしょう。艮氏は保育における性教育について「大人が子どもに対しての決めつけを見直し、子どもが自分で選び、決めていく環境を整えることが重要である」と述べています。ここでいう「決めつけ」とは、たとえば「男の子だから」「女の子だから」といったジェンダーバイアスを意味します。つまり、幼児期の性教育は、子ども自身が自分の性や生き方を自覚し、選択できる力を育てることにつながり、そのことは子どもの人権を保障することでもあるのです。

実際、文部科学省も幼児期の性教育の要素として「プライベートゾーンの理解」「相手の大切なところを触らない・見ない」「嫌な触られ方をされたときの対応」などを示しています。これらを子どもが理解できるようにするためには、性別で活動を分けすぎず、子どもが「違い」を自然に経験できる環境づくりが大切です。差別や偏見は、相手を知らないことから生まれるものです。だからこそ、大人は日常の関わりの中で理解と思いやりを育み、子どもが安心して「嫌」と言え、自分で選択できる環境を保障していくことが、幼児期における性教育の土台になるのだと思います。