乳幼児教育と取り組み

 

保育が、子どもたちにとって生活全体を豊かにするものでなければならないということについては、先日のブログでも触れました。では、「豊かに活動する」とは具体的にどういうことなのか。そして、そのために保育者は何をすればいいのでしょうか。

この点について、教育要領には次のように書かれています。

「保育教諭は園児との信頼関係を十分に築き、園児が自ら安心して身近な環境に主体的に関わり、環境とのかかわり方や意味に気づき、これらを取り込もうとして、試行錯誤したり、考えたりするようになる幼児期の教育における見方・考え方を生かし、その活動が豊かに展開されるように環境を整え、園児とともによりよい教育及び保育の環境を創造するように努めるものとする」

この文から読み取れる重要なポイントは3つあります。
1つ目は、子どもたちが安心して身近な環境に主体的に関わること
2つ目は、試行錯誤しながら考えることを支えること
3つ目は、そのような活動が展開されるための環境を整えることです。


逆に言えば、子どもたちが主体的に関われない、あるいは考えたり試したりする経験ができない環境は、本来の保育の目的から外れてしまうとも言えます。これが、いわゆる“昔ながらの保育”が見直されている理由の一つでもあります。

こうした考え方は、私たちが実践している藤森メソッド(見守る保育)にも共通しています。藤森メソッドでは、子どもが自ら活動を選ぶことができる「ゾーン保育」を取り入れ、主体的な関わりを支援する環境づくりを大切にしています。


このような主体性を重視した環境づくりを考える上で、「年齢」という要素も無視できません。実際、教育要領などには「年齢によるクラス編成をすべき」といった明確な記述はありません。

その代わり、認定こども園法第9条では、この点に関して次のように記述されています。

「発達や学びの連続性及び生活連続性の観点」

ここで大切なのは、「年齢によって一律に分ける」のではなく、「発達や学び、生活を連続的に見る」視点が必要であるということです。

子どもの成長は、時代や文化に関係なく同じような順をたどります。たとえば、「座る→ハイハイ→立つ→話す」という流れはどの子どもにも共通しています。しかし、そのタイミングには個人差があります。早い子もいれば遅い子もいます。

それを「4月から新年度」といった大人の都合で一律に区切るのは、子どもにとっては不自然です。ここに、年齢別保育の課題があります。

だからこそ、私たちは「異年齢保育」という視点を重視しています。年齢にとらわれず、子どもたちの発達を連続的にとらえること。そこに、乳幼児教育の本質があると考えています。


一方で、ここまで述べてきたような環境が整っていれば、保育者は子どもを「ただ見ていればよい」というわけではありません。

もちろん、保育者が子どもにさまざまなことを伝えていくことも重要です。

ですが、その際子どもの主体性を尊重する姿勢と、保育者が提供するカリキュラムとのバランスが必要になります。

このバランスを取るための一つの方法として、私たちは「選択制保育」を導入しています。保育者はねらいをもった活動を提案し、その中から子どもが自分の興味や発達段階に応じて活動を選べるようにする。これにより、保育者の意図と子どもの意思の両方を尊重した保育が実現できます。


この「バランス」という考え方は、実は社会においても非常に大切な視点だと思っています。

社会とは、他者とともに生きる集団活動です。「自分だけが良ければいい」という考え方も、「他人のために自分を犠牲にする」という考え方もどちらか一方というのは極端な話です。

人のために自分があり、自分のために人がある。

そうした相互の関係性を大切にすることこそが、民主主義の本質であり、私たちが子どもたちに育んでいきたい価値観です。

これは教育基本法第一条にも表れています。

「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた、心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」

保育とは、子どもたちが将来、社会の中で自立しながらも他者と調和して生きていくための“土台”をつくる営みです。その出発点として、私たちは日々の保育の中で、子どもたちの主体性を育み、安心して活動できる環境を整える努力を続けていきたいと思います。