学ぶ素養

これまで赤ちゃんが物の因果関係を知ることと心の因果関係を知るということをゴプニックの本を中心に紹介してきました。赤ちゃんがいかに物事を観察し、そして実験していく中でその因果関係を知っていくのかが分かります。かくゆう、私も子どもが生まれて、赤ちゃんの様子を見ていると、非常にいろんなことを見ているのを感じます。そして、見たことを実際に実験し、検証している姿もよく見ていると行っているということが分かります。

 

大切なことはこういった子どもの姿を楽しめるかどうかということが保育や育児をする上で重要なものであるように思います。子どもたちは生活の中で、いたずらもすれば、壊すこと、手のかかることをします。いっけん、それらの行動は大人を困らせる行動であるかもしれません。しかし、裏を返せば、それだけ興味関心が広がっているのだと赤ちゃんを見ていると常々感じます。

 

ゴプニックは子どもが因果構造について、特に心の因果関係を知ることが重要だと言っています。なぜなら、物理的な因果関係の探求は今の時代かなり進んでいます。人類が発明した道具、車輪や梃子といった発明は世界を大きく変えました。そして、人類は地球のみならず、宇宙探検ができるほどの発展を見せています。それと同時に世界を破壊する手段すら手に入れました。しかし、いくら機械やロケット、爆弾といったものが発展して新しい技術ができたとしても、それを使うのは人間であって、心の因果関係、人が人に伝える言葉にかかってきます。心の理論というものが土台にあるからこそ、技術が生かされるのです。

 

世界や心の因果マップを作り、それを使って新しい可能性を思い描き、実現させていくことは、人間が自らを変革していく原動力になります、この力は観察や実験を行ってはマップを見直し、修正することで強められます。たった一枚の正確な因果マップから無数の可能性が生まれるのです。世界と私たち自身の正確なマップが増えるにつれ、可能性はさらに広がります。

 

ゴプニックは「私たちを人間らしくしているものの核心は、世界の因果構造を学ぶこの能力なのかもしれません。」と言っています。人間の知性の進化については、よく知られる2つの説があります。1つは、物理的因果関係の理解から生まれる複雑な道具使用に着目したもの、2つ目は心理的な因果関係の理解から生まれる、複雑な社会ネットワークの維持と文化の発展を重視するものです。この2つにおいても因果関係を重く見ている点は同じなのです。

 

この力が人間が他の生物よりもずば抜けた学習能力によって高められているのです。そして、この学習能力にゴプニックは「子ども期」というのが非常に関与していると考えています。子どもたちがなぜ飽きずに人のまねをするのか、なぜ観察をするのか。それは幼児というものが、物理的世界と心の世界の因果構造を素早く正確に学ぶように作られているからなのです。

 

私たちの脳にはほんのちいさな赤ちゃんの頃から、実験と統計的分析をするプログラムがあり、無意識のうちにこのプログラムを使い、世界を表す因果マップを少しずつ作り変えていきます。赤ちゃんも、私たち大人も、このプラグラムがあるおかげで、真実を見つけられるのだとゴプニックは言っています。

 

「もともと子どもたちは能動的に学ぶ力を持っている」というのは前提にあるということを私たちは理解していなければいけないのだろうと思います。だから「教育」が必要なのです。そして、その教育は「環境を通すこと」が必要なのです。私たちは教育を子どもに「施すこと」と考えていることがあるように思います。そうではなく、子ども自らが学ぼうとする力を信じ、その力を発揮できるための「援助」をしなければいけないのです。