行動から学ぶ

これまで、子どもが行う因果学習を2つ紹介しました。一つ目が観察結果の統計分析といった「観察」です。これはブリケット探知機のケースを見ることで、答えを見つけていました。2つ目は自分で行う「実験」です。これもブリケット探知機を改良した装置を使い、自分自身がいじくったりすることで、物事を深く知ろうという探求心をもとに、因果関係を学んでいくということになります。

 

そして、3つ目は他人のする実験の観察です。これは「観察」や「実験」の中間にあたり、人間にとっては3つのうちで一番重要な学びかもしれないとゴプニックは言っています。他人の行動から学ぶといのは、現在に始まったことではなく、人間の文化形成の基本的メカニズムであると言います。他人のすることを見ているだけでも、先祖代々、蓄積されてきた豊かな知識を得られたのです。つまり、伝承ですね。こういったことがなぜ、人間にとって重要な行動となるのか。それは、実験は何かをやってみて、その結果がどうなるかを見ていくことになりますが、因果構造を知るうえで有効であっても、その反面、多くの労力や資源や、意志を必要とします。これに比べ、観察において、他人がやったことも自分でしたことと同等だと考えれば、他人のする実験や介入の結果からも学べるようになり、学習の範囲が一気に広がるのです。知識が豊富な人の実演を見るだけでも、因果学習には役に立ちます。つまりは「モデル」を持つことで見て学ぶということですね。

 

赤ちゃんも他人の行動から学ぶのは上手です。誰かがする介入は自分と同等だと分かっているかのようだと言います。たとえば、生後7か月の赤ちゃんは、他人の行動には何かしらの目的があることを理解しています。アマンダ・ウッドワードは以前紹介した「馴化」の仕組みを使って実験をしました。

 

まずは、赤ちゃんに2種類のおもちゃを見せます。テーブルの上にボールとクマのぬいぐるみが置いてあります。そこに手が伸びてきて、クマだけを取り去ります。次にボールとクマを逆に置いてみます。すると赤ちゃんは、ボールとクマ、どちらが取られると推測するでしょうか?7か月の赤ちゃんはクマだろうと推測しました。それは実際にクマが取られたといより、ボールが取られたときの方が注視時間が長いことからわかります。つまり、ボールが取られたときの方が意外と思ったいうのです。これの面白いところは伸びてくるのが人の手ではなく、棒であったら、赤ちゃんはこうした予測を立てません。意図をもつのは人間だけだと考えたのです。

 

保育の中でも子どもたちがモデルを見て、新しい行動を獲得する様子はよく見ます。それは赤ちゃんなりに、物事を理解し、その意図まで理解できているから、模倣が行うことができるのですね。