因果マップと予測

子どもにも因果マップを描くことができることが分かってきました。マップを数値化し、それを使って、正確な予測や介入や反事実を生み出すことができるのです。では、実際因果マップを使用して、可能性を思い描き、世界を変えられることを確かめるために、どういった方法をとったのでしょうか。子どもも最新のコンピューターのようなプログラムを使っているということはどこから見えてきたのでしょうか。ゴプニックは一つの方法を紹介しています。

 

ゴプニックが紹介した方法は、まず、因果的なつながりをもった出来事を3,4歳に教え、その子がその知識をもとに予測を組み立てたり、そこに介入する方法を思いついたり、別の可能性を考えられるかどうかを試してみたのです。このやり方であれば、新たに提供された因果関係の知識つまり、新しい因果マップから組み立てた思考を取り出すことはできるのではないかと考えたのです。ゴプニックは工具店と大学院生の助けを借りて、「ブリケット」と名付けました。この装置は四角い箱で特定のブロックを載せると光がついて音が鳴ります。しかし、決まったもの以外のブロックを載せたときには反応しません。実験では、まず、子どもたちに「これはブリケット・マシンです。ブリケットで動くのよ。どれがブリケットなのか教えてくれる?」と話します。子どもはこの装置に興奮し、どんなふうに反応するのか、どのブロックがブリケットなのか、さっそく、調べます。ブロックを箱にのせ、強弱をつけて押してみたり、ひっかいて中になにがあるのか知ろうとしたりしました。

 

この実験で、どのブロックが装置を動かすブリケットかわかってくると、子どもはその情報をもとに、新しい可能性を思い描いたり、反実仮想におる予測もたてられるようになりました。最初の実験では、子どもたちにブリケットは1つしかないと話してから、そのブリケットを非ブリケットと組み合わせ、2つ一緒に装置に起きました。すると、装置は当然光が付きます。そのとき、4歳児の一人が、どんな哲学者も満足させられるような見事な反実仮想をしたのです。彼はこう言いました「ブリケットじゃなく、こっちのブロックだけ載せたら、悲観なかったよね」

 

この子たちに装置を動かしてちょうだい、というとブリケット1個だけを選びます。装置の止め方を聞けば、ブリケットだけ外すと答えます。誰かがそうやって止めるのを見たことがないにも関わらず、新しく得た因果関係の情報から、反実仮想をしながら正しい結論にたどりつくことができるのです。装置からブリケットを外すとどうなるかも、最初からブリケットがなかったらどうだったかも、正しく推論できます。

 

この実験の内容を見ていると子どもたちは普段の遊びの中で様々な「実験」と言われる「いたずら」をします。「これをこうしたらどうなるのだろうか」「こうなるのか?」といった子どもなりの見通しをもってまるで実験するかのようにいたずらをしています。一見、大人からすると困った行動のように思いますが、そこで行われている子どもたちの脳の発達においては、かなり高度なコンピューターの処理のようなことが子どもたちの頭の中で行われているのでしょう。「いたずら」も考えものですが、そこでの学びもあるのでしょう。子どもたちが遊びの中で行っている遊びにはこういった見通しや因果関係の知識を得ること、反実仮想で物事を予想することといったことを学んでいるのだろうと思います。これは先生が一方的に教えるといった一斉保育や先生が逐一教える保育では養うことができないものであるのでしょう。「遊び」が大切にされるべき大切な部分はこういった育ちの意図にもあるのですね。