伝統的な社会から学ぶ
藤森平司氏は「保育の起源」の中で、米国の進化生物学者ジャレド・ダイアモンド氏の著書「The World Until Yesterday(昨日までの世界)」の「子育てについて伝統的社会から学ぶべきである」という文章を紹介しています。
そこには現在の社会は素晴らしいものでおおむね安心で安全な社会に暮らすことができる半面、「子育て」という文化を実践し子孫に残し、伝えていくという、太古からずっと遺伝子レベルで受け継がれてきたことが、明治以降の国家主義と西洋化によって机上の学問になってしまったというのです。そして、伝統的社会から学ぶものとして、少子高齢化社会を迎えた現代社会における子育てと高齢者の問題をダイアモンド氏はあげています。日本やアメリカでもこういった問題が取り上げられていますが、「30年から40年後には持続的社会をきちんと構築しておかなければ、地球という存在自体をも危うくすることになる」と言っています。そのため、その時期の社会を中心的に支える現在の乳幼児をもっと大切にせよと言います。
そして、大切な乳幼児の育児を、ただ母親だけに押し付けたり、働いている母親の都合だけに合わせその子の入れものとしての(量だけを満たそうと)保育所をつくったり、近代からの国家主義の、西洋化の流れの中で考えられた古い(現在社会に合わない)方法を変えようとしなかったりすることは、持続的社会を構築するうえで見直さなければいけないことと言っています。
そこで、ダイアモンド氏はこれから親になる人に向かって伝統的社会で行われてきた育児方法を取り入れるように提案します。
・求められるたびに授乳する(現実的に対応可能であれば)
・離乳を遅くする
・乳児に複数の成人とスキンシップをさせる
・添い寝をする(固めのマットレスか揺り籠を寝室に置き、小児科医と相談することが必要
・乳児を抱きかかえ、正面を向かせる
・グループ育児を増やす
・子どもの泣き声にすぐ反応する
・体罰を避ける
・子どもに自由に探検させる(子どもから目を離さないように)
・異年齢の子どもと遊ばせる(小さい子どもにも、大きくなった子どもにも効果がある)
・出来合いの教育玩具やテレビゲーム、そのほかのお仕着せのごらくではなく、自分たちで楽しむ方法を学ぶようにさせる
こうやって、これらの項目を見ていると決して特別なことを提案していることではないように感じます。しかし、最近では異年齢での遊びや自由に探検できる場所、自分他tで楽しむ方法を学ぶようにすることなどは難しくなっているように思います。また、乳児期においても複数の成人とスキンシップさせることやグループ育児など家庭の中に複数の大人がいないことが多くなっているのも今の社会の特徴のように思います。家庭でこういった環境が作れないのであれば、その時期を預かる施設などが、あえてその環境を作らなければいけない時代なのだということも改めて感じます。今でも日本の保育や教育は多子社会のままという話も聞きます。これらの提案を受け、考えるところはたくさんあります。