自分は成功している

人との関係は本当にいろいろあります。礼節がある人もいれば、無礼な人もいます。そういった人を人間社会で生きる以上避けて通ることができません。また、そういった人間関係において、ストレスに強く、乗り越える人と、ストレスをもろに受けて疲れてしまう人がいます。こういったネガティブな態度を取られたときに乗り越えるためにどういったことが必要なのでしょうか。クリスティーン氏はそれは「自分は成功していると思えることだ」と言っています。そして、「たとえ何も対策を講じなくても、自分自身がエネルギーに満ち、生き生きと活動していて、しかも、日々成長していれば、またそれを実感していれば、誰かに無礼な態度を取られても、さほど悪影響を受けることはない。」と言っています。

 

そして、そう思えている人、「自分は成功している」と思っている人は健康で、何かあっても回復が早く、また、仕事への集中力が途切れにくいという傾向があるそうです。この「自分は成功している」という感覚は、「自己肯定感」や「自尊感情」が大きく関わってくるでしょうね。成功して言えるという自信がわずかでもあれば、それが自分を守るバッファのようになり、ストレスを感じにくくなり、注意力が散漫になることもあまりないのです。なおかつ、自らを成功しているとみなす社員が燃え尽き症候群になる確率は、平均的な社員に比べて、2割近く少ないという結果が得られています。ほかにも、自分を成功しているとみなしている人は、自分に対する自身も平均的な社員より、52%強く状況を自分の力で変えられるという気持ちもつよいのです。そうあると人に無礼な態度を取られたとしても、考えがネガティブになったり、集中力が削がれたり、自らを疑うようなことはあまりしなくなります。

 

そのコツは悪いことが起きると、それを簡単にいいように捉えなおすことができるから、大きく傷つくことが少ないのです。逆境に直面したときに「個の逆境はあなたにとってどういう意味があると思うのか」というのです。大切なのは「自分の置かれた状況を自分でどう解釈するのか」ということです。たとえ無礼な人がいたとして、その状況から学べることはないかと考えるのです。「つよくなれば、どんな困難も乗り越えられるなどとは言わない。それはあまりに非現実的だ。だが、他人に言われたこと、されたことを気にしすぎないように注意することはできる」とクリスティーン氏は言っています。成功の自覚がある人は、ない人に比べ、他人の無礼な態度への悪影響が34%少ないというデータもあるそうです。

 

しかし、なかなか「成功している」ということを自覚するのは難しいです。特に日本ではその尺度が自分にあるというよりも、人と自分とを比べて、自己を判断する人が多いのではないでしょうか。そうすると実感として「成功している」と感じることはなかなか困難です。ただ、「困難を自分の課題」に思うことはできます。私自身も以前、人間関係で困ったときやいきずまったときに先輩から「それは自分の課題と思ったほうが良い」と言われたのを思い出しました。その逆境をどう捉えるか、「自分は無力」と捉えるのと「ここから学ぶこと」を模索するのとでは大きく違います。そう簡単にポジティブになることは難しいですが、物事を真正面から向き合う向き合い方を知るだけで大きく気持ちが変わったのを覚えています。こういった小さなポジティブシンキングから少しずつ自分の自信をつけていくことも大切なのだろうと思います。大切なのは今がすべてと思わないことなのだろうと思います。

受ける側

では、無礼な扱いをもし、受ける側であったらどうでしょうか。クリスティーン氏は無礼な態度を受けたときにうまく、自分の反応を制御できないと、短時間のうちに、自体が全く手に負えないものになってしまう恐れがあると言っています。そのため、賢い振る舞いが必要になるのです。どういった時でも決して自分を忘れてはいけないのです。なぜなら、感情というものは伝染性が強く、周囲に大きな影響を与えるからです。行事等、保育園でも職員が落ち着かない環境になる時期があります。そんな時に、イライラしている人と一緒にいると、知らず自分自身もイライラしてしまうことがあります。「売り言葉に買い言葉」という言葉があるように、感情は伝染し、気づけば自分が影響を受けていることを忘れてしまうのです。特に、怒りというのは伝播しやすく、増幅されやすいのです。その時には自分の行動に対して「やってしまった」と思うことの内容に気を付けなければいけません。絶対に慎むべきなのは「その場ですぐにやり返すことだ」とクリスティーン氏は言います。そんなことをすれば、相手のレベルまで自分を落とすことになるのです。そして、自分の名誉が傷つくことになってしまうのです。

 

では、無礼な扱いを受けた場合、相手と話し合うべきか否か迷う場合があります。そういった時に次の3つのことを問いかけてほしいといいます。①加害者となった同僚に何か言い返しても、身体的な危険はないか。②その無礼な振る舞いは意図的なものか ③その人が無礼な態度をとったのは初めてか です。すべての問いに明確に答えは出せないことが多いと思います。特に動揺しているときはなおさらです。そういったときには同僚や家族、信頼できる先輩、友人などに訪ねたほうがいい場合もあるのです。そして、この3つの問いへの答えが「イエス」だったら、相手をする。相手の言動であなたがどういった気持ちになったかを告げるのです。

 

その際、相手のところへ乗り込んで話をする場合には事前に準備が必要です。「話し合うタイミング」「安全な場所」「双方が気分よくいられる場所」「証人または仲介者としての第三者」。自分の言っていることが正しいかをリハーサルしておくことも良い。大切なことは話に行くときには「どうすれば最もお互いにとって利益になるか」を最優先に考えるようにする。話をするときには中心となる問題だけ話し、互いの人格については決して触れない。触れるのはあくまで相手の行動である。話をする際には言語以外でのコミュニケーションにも気を配り、声の調子などには気を付ける。「何を話すか」ばかりに気を向けるのではなく、「どう話すか」にも注意しなければいけません。つまり、細かな態度、視線、表情、無意識の動き、話すテンポ、などです。相手が感情的になったり、怒りをあらわにするようなことがあっても、できる限り、咎めたりせず、そのままにしておいた方がいいそうです。その方が、対話が実りあるものになるのです。相手の感情を受け入れる意思を示したほうが良い結果になることが多いのです。相手の言葉を言い返すようにするだけでも、相手を理解したという意思が伝わる。そういったように謙虚な姿勢を見せることで、相手には好ましく映り、信頼も得らえるということがいくつかの実験でも証明されているのです。

 

そして、忘れてはいけないのは「話し合いの目的」です。目的はこれからより良い仕事をするためにお互いにどうすればいいのかを話すことなのです。そして、相手ももしかすると誰かに不当な扱いを受けていると感じているのかもしれません。実は職場の外に問題を抱えているのかもしれません。話し合いをする際には「共感」をすることが重要なのです。

 

と、まぁ、こういったことをクリスティーン氏は言っています。話し合いをする際に、気を付けることを挙げています。確かにその通りですし、共感力や相手の感情を受け入れることで、話し合いが冷静なものになるというのはよくわかります。そして、何よりも感じるのが、ここで挙げられていることは、そのまま保育の現場でも起きていることです。子どもたちの喧嘩においても話し合いがもたれますが、その時に「相手の気持ちを考える」ことや「話す目的から脱線しない」ことなどは子どもでも同様です。クリスティーン氏は言っている内容はそのまま保育にも転換できるのです。面白いですね。人が話し合うプロセス、コミュニケーションの下となるプロセスは大人だろうと、子どもだろうと変わらないのです。見方を変えると、「無礼な人」というのは乳幼児期や生きていく経験の中で、こういった経験値が少ない人なのかもしれません。こういった本がでて、人気があるというのはこういったことを改めて「学ばなければいけない」時代なのかもしれません。

自覚

これまで、自身が無礼であった場合、どう変わっていけばいいのか、会社が生まれ変わるようにどう分析、風土を考えたらいいのかをクリスティーン氏の考えを紹介していました。では、「無礼な社員」とどう向き合ったらいいのでしょうか。この対応には2つの選択肢があると言います。それは共に働き続けるか、やめてもらうかであると言います。当然、この2択においてほとんどの企業は前者の「共に働き続ける」と選んでいました。しかし、ともに働き続けるとは言っても「振る舞いは無礼だけれども、面白いのでそのまま変わらずにいたもらうことにした」というケースは稀です。つまり、無礼な社員の大多数は行動を改め、生まれ変わらせることが必要になってくるのです。

 

バスケットボールのコーチ、ジョン・ウッデンは「実は重要なのはほんの些細なことだ。些細な違いが、大きな違いを生む」といっています。では、こういった些細な行動を改めさせるためにはどうしたらいいのでしょうか。まず、リーダー本人に良くない振る舞いがあれば、即座に改め、同時に、行動をどう改めるべきかを社員に教育しなければいけません。無礼な振る舞いをする社員がいたときに、自分にいったい何ができるか、自分にいったい何ができるのかを考えてほしいといっています。

 

では、他人の行動を変えるにはどうしたらいいのでしょうか。このことに対して、クリスティーン氏はマーシャル・ゴールドスミスのフィードバックループを紹介しています。このフィードバックループとは、証拠を提示する、証拠の妥当性を確認する、悪い行動を続けた場合にどうなるかを伝える、改善を実行させる。という4つのステップから構成される「証拠の提示」はその人を評価する際に行います。たとえば、あるマネージャーが、部下の話に耳を傾けようとしない、部下を多くの人たちの前で侮辱するといった場合、この事例が目撃されれば、このことがマネージャーの無礼な振る舞いの証拠として提示されます。

 

つまり、誰かの無礼な行動を改めさせるには、その行動が悪い結果に確実に結びつくことを示す必要があるのです。自分の行動が悪い結果につながると納得できれば、それが修正の動機になりえるのです。「人が何かをする-たとえば、自分の行動を変える―のは、そうするのが、自分の価値観に照らして良いことだと証明されたときである」と言っています。つまり、大切なのは本人に自覚させ、行動に移させなければいけません。そして、その原因も自分で知っていると解決につながりやすい、ストレスなのか、不安感なのか、まずは本人が気づく必要があるのです。

 

そして、リーダーは最終的にどうなってほしいのか、どうすれば、その人が会社にもっと貢献する存在になるか。その人を変えさせるのに何が最も効果的か、どういう計画ならその人は守っていくかを見通す必要があります。まずは、リーダーがその人自体を見捨てないことも必要ですし、相手を理解した上で、解決する方法を一緒に考えていく必要があるのですね。そう思うとやはり、リーダー層が礼節を持っておくことが、何よりも重要だということが分かります。リーダー層との信頼関係も大きな要因として重要度があります。先にもあるように保育施設というのはすべてが人間関係と言っても過言ではないほど、人との関わりが中心です。また、人の育ちが念頭にあるので「業績」というような目に見えた形で測ることは難しい。そのため、理念や子ども観を園自体がしっかりと打ち出していないといけないと思っています。いろんな考え、保育観はあってもいいのですが、その理想とされる理念は共有されていないといけないのです。そのうえで、どう保育者自身が理念を理解し、気づきを得るのかはその組織環境に大きく影響されることだと思います。「礼節」というのはそのうえで、必要な姿勢であることが見えてきます。

トップパフォーマー

クリスティーン氏は人に感謝の意を表すことは、礼節ある人間になるためには必要なことですが、特に「先頭に立って何か成果を上げた人だけでなく、その人を後押しするために動いた人たち、つまり、陰で会社を前進させる力となった人たちも正当に評価でき、その働きに報いることができないといけない」と言っています。組織の中で働く人たちは、自分の仕事だけでなく、他人と協力し合うための仕事にも時間を使う必要があります。ところが、「社員同士のやり取り」がどのように行われているかを把握する仕組みを持っている企業は少ないと言っています。アイオワ大学のニン・リーらの研究によると、自分の仕事とは関係ない「付加価値のなる仕事」というのは周囲の同僚たちを助けます。こういった「スター社員」はほかの社員すべてを合わせたよりも、会社の業績に大きな影響を与えると言っています。しかし、こういったスター社員の貢献を多くの企業は認識していないと言っています。

 

ある調査によると、他の社員に対して非常に協力的な人たちのうち、社内で「トップパフォーマー」だと認識されているのはわずか50%だと言います。そして、「スター」とされている社員の中には、他人にあまり協力的でない人が20%もいるという。自分の数字をあげ、手柄を立てることばかり熱心で、同僚の成功に貢献しようという人たちなのです。残りの30%の人たちこそ、真のトップパフォーマーといえるのです。

 

しかし、この真のトップパフォーマ―には、どこかで燃え尽きてしまう危険性があると言っています。なぜなら、そういった「縁の下の力もち」として優秀であるというと、それだけみんながその人に対して過剰な要求をしてしまいかねないからです。そのため、20社における企業への調査で、他人と進んで協力する姿勢のある人ほど、最終的には企業に対する帰属意識が下がり、自分のキャリアに対する満足度も低くなる傾向にあると言います。そして、非常に貴重な存在であるにもかかわらず、結局は勤務していた企業を去ってしまい。その人がやめてしまうと、持っていた知識も、人脈も、すべて失われてしまうことになります。また仮に辞めずに会社に残ったとしても、次第に無気力になり、不満を募らせ、それを同僚たちにも広めてしまう恐れがあります。

 

このように他人と協力する態度を評価できる体制になっているかを確認するべきであるが、こういった他人を助けられる人こそ最高とみなし、その努力に感謝できる会社になっているかを確認するべきだと言っています。保育施設においても、こういった「トップパフォーマー」といわれる人はいます。そういう人ほど、保育の話をよくし、保育の話を聞きに来るのも特徴として挙げらるように思います。そう思うと、「礼節」というのはリーダーには最も必要なスキルであるでしょうね。保育の業界は企業と違い、はっきりした業績が見えるわけでもなく、成果が見えにくいです。だからこそ、より人との関係性がよりはっきりしているようにも思います。「礼節」を主題にしているこのクリスティーン・ポラス氏の本は企業だけではなく、保育施設においても、同様に重要なことを挙げているように思います。

礼節あるチーム作り

クリスティーン氏は礼節あるチームを作ることも重要であると言っています。そのためにはまず、「礼節ある人を採用し、礼節がない人を避けておかなければいけない」と言っています。そして、「誤った人間を雇うくらいなら、誰も雇わない」と言っています。「無礼な言動が組織に与える損害は甚大だ」といっている内容はこれまでの中でも言われていました。いくら能力や技術、才能があっても、無礼な人間であれば、その能力で相殺できるものではないのです。これは最近の就職活動においても言えることです。以前、リクルートの方から就職活動について話を聞いたのですが、最近ではいくら優秀な大学を出ても、常識が無かったり、初歩的なやりとりができない人が多くあると言われていました。学歴や成績が先に出てしまっている教育現場において、これはある一種の弊害でもあるのでしょう。社会に出たときに、まずベースとなるコミュニケーション能力や問題解決能力がなければ、いくら優秀であってもその能力が生かされることはないのです。そのため、無礼な人間が入り込まないように細心の注意を払う必要があるとクリスティーン氏は言っています。

 

つぎに、「礼節を高めるコーチングを取り入れる必要性」を言っています。それは「自分が今、何をすればいいかを分からせてくれる。」ものであり、「すべきことを小さな段階に分け、取り組みやすくしてくれるもの」であり、「現状に満足することや慢心して基本を忘れてしまうことを決して許さないもの」を伝えることが大切になるのです。そのためには、こういったことを理解しやすくするための経営理念の共通化が求められます。そして、何よりもリーダーから率先して礼節を守ることでより効果的になるというのです。私は常々、リーダーになる人の意識は部下となる人たちに伝染するということを感じます。リーダーが熱心であれば、部下も熱心になりますし、リーダーが無礼であれば、部下も無礼になる。どこかで管理者とプレーヤーとが区別されるように見られがちですが、そこには明確に影響力が出ているように思います。これは自分自身でも戒めに思っておかなければいけないことだと思っています。チームを作るうえで、自分自身の影響力を各々が感じていなければいけないと思うのですが、それはその組織にいる人それぞれに影響力があることを知ることが「いいチーム」を作るうえで大切なことだということを感じます。これが理解できるのであれば、リーダーがコーチングをするのではなく、同等の社員同士で「私の行動で良いと思うところはどこか、反対に嫌だと思うところはどこか」といった社員同士のコーチングができるようになるのです。

 

真にいいチームというのはこういった「指摘し合える人間関係」というのが理想だと思います。そのことについてクリスティーン氏は「チーム、企業を礼節あるものにするには、まず明確な目標を立てることが必要になる。そして、基本的な動作を反復練習するなど継続的な努力が重要です。ただ、それがすべてではない。どういう言動が望ましいのか、チームや企業にいる人たちの間で意見が一致していることも必要になる。皆でよく話し合い、自分たちはどのような人間になりたいのか、どういう規範に則って行動したいのかを確認し合うようにする」そのためにも、「互いの優しい助け合いが欠かせない。誰かが規範から逸脱していることに気づいたときには、叱責するのではなく、丁寧に指摘し合えるようになるとよい」と言っています。まさに、この関係性はお互いを知っていないとできないことであり、そしてその人自身を尊重してなければできない内容です。