言葉と養育

 

ルーマニアの孤児院での子どもの発達から多くのことが見えてきます。スピッツ氏の研究からホスピタリズム(施設病)が見られ、孤児院や乳児院に収容された子どもたちの示す発達として、身体発育の遅れ、言語・知能の発達の遅れ、習癖、情緒的な障害、対人関係の希薄さなどが起きることがあった。ほかにも周囲に対する無関心や動きや発声の少なさ、笑顔や呼びかけ刺激に対する反応の無さ、体重増加停止、発達指数の著しい低下など、母親から突然分離されて育てられたり、乳児院で育てられる乳児にはこのような発達上の影響が出てくるのです。では、それらを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。

 

これらを防ぐには4つの視点があると言っています。一つは小さい頃から褒められ、受容される体験が不可欠ということです。2つ目に、自分が誰かの役に立っているという実感を持つこと、3つ目に集団の中で認められる機会を増やす。最後に健全な自尊感情と他者への信頼感を育てることだと言っています。

 

このことはルーマニアの孤児院での養育者の保育の仕方からも見えてきます。当時の孤児院では20:1で0歳児を見ており、愛着を形成するためのふれあいなどは極端に少なかったと言われています。こういった体験があるために、上記の4つの視点にあるように自分という自我を感じることもなかったのかもしれません。そして、それは発達において、とても大きな影響を与えることになります。

 

では、言語発達についてはどうなのでしょうか。これについてはルーマニアの孤児院の調査を行ったウィンザーが2011年に調査しました。それによると15カ月までに里子に出された子どもたちは30ヶ月、42カ月で通常の年齢の子どもの表出や理解言語との差はなくなっていました。しかし、24カ月以降に里子に出た子どもたちは施設児と同じくらいの言語遅滞が見られたそうです。施設児が家庭養育児と比べると一番言語遅滞が見られたのは言うまでもありません。つまり、15~24カ月の間に里子にでることで言語遅滞に関していえば、改善が見られるということが言えます。

 

また、54名の里親に育てられた子どもと51名の施設に居続けた子どもの8歳時点での追跡調査によると、里親児は施設児よりも長い文章を話し、文反復能力にたけ、書かれた語の同定能力に優れていたそうです。そして、2歳1ヶ月(25ヶ月)までに里親に養育を開始された子どもは単語認知と無意味語反復能力に優れていました。1歳3か月(15ヶ月)までに里親に育てられた子どもは家庭養育児と同等の能力でした。2歳1ヶ月以降に里親の基に預けられた子どもは、8歳時点の書き言葉の発達も遅れているという結果で、乳児期の養育者からの働きかけがいかに重要かが示されているといいます。

 

ここまで、極端な環境はあまりないだろうということが見えますが、今社会の中で起きているネグレクトの子どもたちの状況は近いのかもしれません。そういったとき、保育施設としてはどのような関りを持つことが必要なのか、「愛着」というものがその根本にあるということが伺えます。