真実と想像と愛と
これまでアリソン・ゴプニックさんの「哲学する赤ちゃん」という本を追って紹介してきましたが、結びに赤ちゃんがごく早期の段階から子どもの心を変化させていく力は「学習・反実仮想・養育」といった三本の糸がより合わさって生まれると言っています。そして、これらのことは「真実・想像・愛」とも言い換えることが出来ると言っています。
真実は「私たちは、世界がどんなものか知るに伴い、行動を変える」ということにつながるといい。人間は他の動物よりも高い変革能力を備えています。そして、赤ちゃんは生まれつき、世界や他人についてある程度のことは知っているため、この世界やこの世界を共有する人たちについての学習は幸先よくスタートが切れるのです。そして、愛を学び、物理的な世界の因果関係を学び、心の世界までも学ぶのです。そして、他人の心を学ぶ中で、自分の心の仕組みも学習します。他人について学んだ知識をもとに自分を理解し、自分について学んだ知識から他人を理解します。そして、こういったことを通して、自分の行動を変えることを知っていくのです。自分の心がわかってくると、自分の体験を一貫性のあるストーリー、紆余曲折ある人生の物語として、統一して理解するようになります。
このようにして赤ちゃんは自分を理解し、知識や真実を身につけていきます。このことについてゴプニックは「真実を見出す子どもの優れた能力は、想像力と愛に依存する」と言っています。想像は心の中に因果マップを検討し、様々な予測を立てます。想像を通して真実を探るのです。そして、こういった想像を通した学習ができるのも周りの人が世話をしてくれるからであり、愛ある環境が子どもの想像における学習の土台となるのです。
このように「想像力は真実を見つけるのを助け、真実を知ることは想像力を育みます。」子どもの頭の中では因果マップが作られ、反実仮想が繰り返されることで理論が修正され、世界についての知識や概念が充実していきます。そして、子どもが思い描く反事実や可能性も豊かになってきます。そして、その反実仮想が目に見える形になったのが「ごっこ遊び」なのです。こういった想像力は大人になっても保たれ、世界の別のありようを思い描き、現実を変革する力になるのです。そして、想像力はこのように物理的な世界の因果関係だけではなく、心の世界においても因果マップが作られます。知識を得たことにより、別の世界を思い描くことが出来るようになった子どもたちは、空想の友だちも創造します。周囲の人との複雑な相互作用がはじまり、子どもも大人も反実仮想によって望ましい結果につながる道徳規範や社会的協定につながります。
このように想像力は知識に依存し、知識は愛と養育に依存します。大人に守られた子どもは自由に学習し、愛されている子どもは自由に想像力を羽ばたかせます。そして、想像力は規範意識にも影響していきます。