遺伝率

前回の内容では幼児期の体験は後の人生に必ずしも影響しないということが分かってきたことを紹介しました。では、人間の性質はほとんど遺伝子によって決まるということが言えるのかというと、そうでもないようです。人間が多様であるのは、遺伝子と経験が相互に影響し合うことで起きるとゴプニックは言います。

 

心理学では「遺伝率」という言葉をよく使うそうです。それは同じ環境で育った人間でも、賢さ、心の健全度、みじめさといった「形質」に違いが生まれます。この形質と遺伝子の違いに相関があるのかを数学的に調べたのが「遺伝率」です。ここが持っている形質の個人差は、遺伝の影響をどれくらい受けているのかというのです。

 

このことを調べるのに最適な方法が、「双子」を比べてみることです。一卵性双生児は同一の遺伝子を持ちます。それに比べ二卵性双生児の場合は遺伝子に違いがあります。しかし、どちらのタイプの双生児も育つ環境は共通しています。したがって、一卵性双生児では同じだけれど、二卵性双生児では差があるとしたら、その性質は「遺伝性がある」と考えられます。たとえば、一卵性双生児の一方がアルコール依存症になるとすれば、もう一方もアルコール依存症になる確率が高くなります。しかし、二卵性双生児では、もう一方もアルコール依存症になる確率は、無作為に選んだ他人より高くなるものの、一卵性双生児ほど高くありません。つまり、このことから見ると、遺伝性による可能性が見えてくるというのです。

 

「双子」の比較以外にも、養子になった子どもを研究する方法もあります。ある形質が、遺伝子を共有する実親と養親のどちらに似ているのかを調べるのです。この場合も実親がアルコール依存症の子どもは、遺伝的背景が異なる子どもよりアルコール依存症になる確率が高いことが分かっています。親の集団と子どもの集団を別々に調べる方法もあります。この方法でも、アルコール依存症の人は、他の問題と比べ、親もアルコール依存症である確率が高いことが分かりました。これらのことから、ある種のアルコール依存症には遺伝性があると結論されています。

 

このようにある形質の遺伝のしやすさを遺伝率として数値化する研究がされているのです。アルコール依存症の場合、標準的な白人、中流階級の集団では、遺伝率は40%でした。同様にこれをIQに置き換えて計算すると、遺伝率は40~70%と推定されています。

 

しかし、ゴプニックは一つ注意しなければいけないことがあると言います。それは「遺伝率が高いからといって環境要因がほとんど関係ないわけではない」ということです。逆に、遺伝率が低いからといって環境要因が決定的に大きいともいえないようです。人はこう考えると環境的要因と遺伝的要因の両方が相互に作用することで気質というものが決まってくるのでしょうか。遺伝率と環境要因とはどのような因果関係があるのでしょうか。