「当たり前」の見直し

「当たり前」を見直すことは生半可なことではありません。そして、一人で変えていくことも無理が出てきます。自分自身、これまでの保育からの転換期というのはよく考えていかなければ難しいものがあります。私が何よりも難しいと感じたのが、自分の考えと同調するような伝え方を周りの人にどう働きかけることです。周りに大きな変化を起こすがゆえにその大きな波に乗ってもらわなければいけません。そのため、本質として目標や目的に賛同してもらわなければいけないのです。

 

工藤氏は麴町中学校の教育形態を変えることにあたって、そこにある「当たり前」の見直しを始めます。その一つが課題のリスト化です。まず初めに「学校だより」や「学校のコラム」で徹底して発信を行い、校長がどのような考えや教育感を持っているのかを保護者に理解してもらうところから始めていったそうです。そのうちに考えに共感してくれる教員や保護者、地域の方々、応援してくれるNPO法人や教育に関心を持っている企業などが増えていくことになります。

 

そして、現状をありのままに受け止めるために課題のリストを作り始めます。その内容は工藤氏と教員とで初めは200項目くらいから始まったようです。その内容は学習指導や生徒指導といったものだけではなく、鍵の管理や個人情報の書類といった事務管理のものなども含められており、リスト完成後教員と改善・解決に向かう話し合いがもたれるようになってきます。また、このリスト作りには教員のための「自律」を高めることも取り組みに入っています。校長一人がリスト作りを行うと教員からするとそのリストのあり方は「やらなければいけないもの」になってしまい、仮に指示通りに行ったとしても大きな成果にはつながらないと言います。成果につなげるには教員が主体的に課題を発見し、解決策を見つけ、取り組んでいかなければいけないというのです。

 

しかし、大変なのは意見が相反したときです。ある人は「なくしたい」と思ったことでも、違う人は「より充実させたい」と思う人もいます。しかし、工藤氏はどちらも「学校をよくしたい」という思いのもとで何か手立てはないかと考えるプロセスはとてもよかったと言います。また、課題を「見える化」することで、学校の課題を誰かに委ねるのではなく、自分たちの問題であると当事者意識が芽生えたと言います。もし、課題の中で相反した場合は「生徒たちのためになるものか?」「学校のためになるものか?」と上位目標に照らし合わせ、話し合いを行い、解決に向けた合意形成を図っていったそうです。

 

こういった活動を進めていったことで、教員の当事者意識は芽生え、工藤氏が教員の仕事を増やそうとするわけでもなく、教員の労働時間削減や本気で学校教育の充実を図ろうとしていることを理解してくれるようになったのを感じたそうです。結果赴任3年で500項目にまで膨れ上がった課題のうち350項目の改善に至ったのです。

 

そして、何より課題の解決で一番教員に意識してもらったことが「目的」に対して最適な「手段」をとることを強調することにしたのです。

 

私の場合は物事の本質をとらえなければ、解決には至らないと思っているので、できるだけ「そもそも」と考えるようにしています。そうすると多くの悩みはとてもシンプルになるような気がします。自分と相反する考えもあるがその考えも踏まえたうえで本当に幼稚園のためになるのかを考えることは常に問い続けなければいけないと思います。そして、そのためには上位目的を明確にし、それを発信し、ブレない道筋を見通していくことが必要だと考えています。