アタッチメントと実行機能

ルーマニアでのネグレクトの子どもがどれほど実行機能の発達に影響が出ているのかを見ていく研究で、見えてきたのは、一つ目は里親グループの子どもは私設グループの子どもよりも、幾分思考の実行機能に優れているということです。里親グループの子どもは、里親によって庇護されることによって、ネグレクトの状態から脱することになります。そのため、ネグレクト状態の施設グループの子ども達よりも、実行機能が改善されることが分かったのです。もう一つの結果は、里親グループの子どもは、生まれたときから家庭で育った子どもに比べると、思考の実行機能が低いということです。そして、この差は年齢とともに広がっていったのです。IQなどの影響を考慮すると結果がまた変わる点には注意が必要ですが、これらの結果は早期に親などの養育するものとの関係を築けなかったことが重要な影響を及ぼすことを示していると森口氏は言っています。

 

実行機能においては、幼いころからの養育者との関わりが大きく関わっているのですね。では、赤ちゃんと養育者の関わりの中で、どういったことが必要とされるのでしょうか。保育をしていると私は常々、「安心基地」という言葉の意味を感がることがよくあります。赤ちゃんを見ていると、保育者との関わりの中で安心できる存在を見つけると進んで自分から環境に働きかけようと少し離れて遊ぶようになります。実行機能は「自分をコントロールする力」というのはこれまでもたびたび言われていましたが、子どもが新しい世界に自分から飛び込むにはそこにある危険などのリスクを想定なければいけなくなります。保育者との距離感を取っていく過程にはそういった赤ちゃんなりのリスク回避を保育者の目を通して確認している作業のようでもあります。ネグレクトというのはそういった確認作業ができないような環境でもあるのかもしれません。当然、自分をコントロールするモデルや指標を無くすということもあるように思います。では、森口氏の研究ではネグレクトとは、どういった意味合いで赤ちゃんから深刻な影響を及ぼすと考えているのでしょうか。

 

森口氏は赤ちゃんは生後数カ月間にかけて、養育者と「アタッチメント(愛着)」を築くといっています。アタッチメントとは、情緒的な結びつきです。このアタッチメントがあることで、赤ちゃんは不安な時や怖いことがあったときに、安心感を得ることができるというのです。このアタッチメントを形成するには、特に生後間もない時期には、養育者側の関わりが極めて重要になってきます。赤ちゃんの不快な感情や不安な感情を泣くことによって、自分の感情を表現します。その時に養育者は赤ちゃんの状態を見て、敏感に反応する必要があるのです。赤ちゃんが目を覚ました時に誰もいなければ不安で泣くこともあります。そんな時は抱きあげて、安心感を与える必要があるのです。お腹がすいたときにはおっぱいやミルクをあげて、空腹を満たす必要もあります。こういった関係性を築いていくことでアタッチメントの関係性ができあがってくるのだと森口氏は言っています。

 

そして、このアタッチメントを土台が実行機能への土台にもつながるのです。そして、この見解は私の思っているのと非常に似た関係であることが見えてきます。