本当に必要なもの

ペリー就学前プロジェクトではIQを高めるということはかないませんでした。しかし、シカゴ大学のヘックマン博士らが、中学生の時点で幼児教育プログラムを受けていた子どもは、受けなかった子どもをよりも、学校の出席率が高く、学業成績が良いことを見出しました。そして、このような傾向は高校時に継続し、幼児教育プログラムを受けていた子どもは、高校の卒業率が高かったことも報告されています。さらに、大人になってからも、幼児教育プログラムを受けた子どもたちは、収入が高く、生活保護受給率や犯罪率が低いことも明らかになっています。つまり、非認知スキルの発達に影響を与え、それが青年期の学校での成績や成人間における社会的成功を促したことが示されました。このことはペリー就学前プロジェクトのほか、ノースカロライナ州で実施された同規模のアベセダリアンプロジェクトでも同様な結果が報告されています。

 

では、非認知スキルとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。OECDの報告書では、①「他者とうまく付き合う能力」 ②「自分の感情を管理する能力」 ③「目標を達成する能力」の三つが挙げられています。

 

1つ目の「他者とうまくつきあう能力」は他者に対する思いやりや、社交的なスキルのことを言います。これらのスキルが学校や職場で重要なことは言うまでもないです。思いやりのない人は、周りからも助けてもらえず、学校や職場で孤立してしまうでしょう。2つ目の「自分の感情を管理する能力」とは、自尊心を持つことです。自尊心が高すぎるのも問題ですが、自分に自信を持つことは、他者と関わる上で基盤となります。

 

しかし、森口氏はこれら三つの能力のうち、三つ目の「目標を達成する能力」がもっとも重要ではないかと言っています。それは小学校入学前の子どもを対象にした研究の多くが、目標を達成する能力であり、特に実行機能が子どもの将来に与える影響が強いことが示されたことを根拠にしています。最近では、この実行機能は、認知的スキルからも他の非認知スキルからも独立した、特別なスキルだと考えられつつあります。それくらい、実行機能は特別な能力であるということが言えるのです。

 

このことはスティーブ・ジョブズの話からも見えてきますね。彼は実行機能を強く持っていたがゆえに、性格上や付き合いが苦手であったにもかかわらず、マッキントッシュやアップル製品など、経済においてイノベーションを起こすことができたのです。詰まるところ社会に出て成功をつかむために必要なスキルとしては実行機能というのは重要であるということが言えるのです。では、その実行機能とはどういうことを通して測ることができるのでしょうか。これも以前出てきた「マシュマロテスト」によって見えてくるというのです。もう一度、森口氏の内容を含め、テストの内容を復習していこうと思います。