共通する問題
宮口氏は医療少年院での面接の経験から大勢の少年たちが共通して「できないこと」があったということにショックを受けたそうです。それが「簡単な足し算や引き算ができない」「感じが読めない」「簡単な図形を写せない」「短い文章すら復唱できない」ということです。ここから見えることは見る力・聞く力、見えないものを想像する力がとても弱いことが分かります。そして、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、いじめにあっていたりしていたのです。それが非行の原因になっていることにつながるのです。その他にも、高校生なのに九九を知らない、不器用で力加減ができない。日本地図を出しても自分の住んでいるところがわからないということもあったそうです。九州を指して「ここは何?」と聞くと「外国です。中国です」と答えた少年もいたそうです。ひどくなると日本地図を見せても「これは何の図形ですか?見たこともない」という少年もいます。こういった少年たちに「苦手なことは?」と聞くと、みんな口をそろえて「勉強」「人と話すこと」と答えたそうです。
彼らの生育歴を見ていると、大体小学校2年生くらいから勉強についていけなくなり、友だちから馬鹿にされたり、いじめにあったり、先生からは不真面目だと思われたり、家庭内で虐待を受けていたりするそうです。そして、学校に行かなくなったり、暴力や万引きなど様々な問題行動を起こしたりし始めます。しかし、小学校では「厄介な子」として扱われるだけで、軽度知的障害や境界知能(明らかな知的障害ではないが状況によっては支援が必要)があったとしても、その障害に気づかれることはほとんどないのです。結果、中学生になるともう手が付けられず、犯罪によって被害者を作り、逮捕され、少年鑑別所に入ってそこではじめて「障害があったのだ」と気づかれるのです。このように宮口氏は「非行は突然降ってきません。生まれてから現在の非行まですべてつながっています」と言っています。そして、ある少年の事例を紹介しています。私はそこに日本の教育現場における大きな問題があり、改善しなければいけない視点が隠れているように思います。
その少年は小学校2~4年生まで学校によく遅刻していて、万引きまでしていたのですが、小学校5年になってとても熱心な先生に出会います。そこで「勉強が面白い」「学校が楽しい」と感じるまでになりました。万引きしていた子が学校が楽しい、勉強が楽しいと言い出したのです。しかし、彼の人生は中学校に入って急降下していきます。「学校に遅刻」「学校をさぼる」「悪いことをして逮捕される」などして、少年院にはいることになってしまいました。彼が中学校にいって急降下した原因を少年は「中学校に入ったら全く勉強が分からなくなった。でも誰も教えてくれなかった。勉強が分からないので学校が面白くなくなり、さぼるようになった。それから悪いことをし始めた」と答えたそうです。つまり、この少年の場合、中学校の頃に先生が生涯に気づいてくれ、熱心に弁起用への指導をしてくれていたら非行化しなかったでしょうし、被害者も生まれなかったのかもしれません。非行化を防ぐためにも、勉強への支援がとても大切だと感じたケースだったと宮口氏は紹介しています。
非行を起こす少年たちが「勉強」と「人と話すこと」に課題をもっていて、そこの改善がないことが結果として非行化を起こしているというのは非常に悲しいことです。私は保育の仕事をし始め、この仕事のことを勉強したり、海外の保育や教育現場を見ていくなかで非常に感じたのは、日本の教育現場は「成績」や「進路」「受験」ということに目が向きすぎているのが問題のようにも思いました。海外では「留年」が小学校の頃からありますし、小学校においても、子どもの様子から進学のタイミングを見ます。日本のように4月時の年齢で進学することはありません。そのため、「留年」も日本のように「落第」といったネガティブなものではなく「Stay(留まる)」というようにわかるまでいることができるのです。もし、こういった教育現場があれば、もしかしたら、ここで出てきた非行少年は生まれず、被害者も出なかったかもしれません。なににしても、子どもたちの教育に携わるということは子どもたちの人生にも、大きな影響を与えているという事実はしっかりと受け止めなければいけないですね。