成功と思考
前回出てきた認知行動療法(CBT)は、心理学者がメタ認知と呼ぶものの一つです。メタ認知という用語はいろいろな意味を含むが、おおまかにいって思考についての思考のことです。性格の通知表をみるという行為も、メタ認知的な戦略であると言えます。
では、こういったメタ認知はいつごろからできるようになるのでしょうか。『オプティミストはなぜ成功するか』を書いたセリグマンはこう書いています。「悲観主義の子どもを楽観主義にかえるのに最適な時期は「思春期より前、しかしメタ認知ができる(思考についての思考ができる)程度には成長したころ」であるという。このころに性格について話すこと、性格について考えること、性格を評価すること、これらはすべてメタ認知のプロセスなのである。
しかし、アンジェラ・ダックワースは、性格について考えたり、話したりするだけでは、特に思春期の子どもたちにとっては充分でないと信じています。やり抜く力や意欲や自制心を伸ばす必要があると観念の上でメタ認知を理解することは大切です。しかし実際に気質を育むためのツールを手にいれるのはまた別の問題だというのです。これはダックワースがモチベーションと意志力を区別していることと表裏一体の考え方です。つまり、意志力があっても動機づけがなければあまり助けにならない。同様に、動議づけがなされていてもゴールまでたどり着く強い意志の力がなければそれもまた充分ではないのです。どちらか一方があっても、目標を達成するには不十分だというのです。そして、ダックワースは現在、若者たちがこの意志力というツールを身につける手助けをしようとしています。
この意志力をつけるということについて、ダックワースは多くの点で、ウォルター・ミシェルとの共同研究(マシュマロテスト)の延長線上にあると言っています。ダックワースはKIPPインフィニティで5年生に試したメタ認知を促す戦略を説明しています。これは「実行意図をともなう精神的対照(MCII)」という手法で、ニューヨーク大学の心理学者ガブリエル・エッティンゲンとその同僚たちが行ったものです。これは人が目標を設定するときに用いる戦略は3つあり、そのうち2つはうまくいかない。というものでした。
まず、オプティミストは「空想」を好むと言います。到達したい未来を想像して、それにともなって起こるはずのあらゆる良いこと(賞賛や自己の満足、将来の成功)を思い描く。エッティンゲンによれば、「空想」はドーパミン分泌の引き金となることもあり、本当に気分の良いものではあるが、実際の達成にはつながらないと言います。
つぎにペシミストは、エッティンゲンの言葉で言えば、「思案」という戦略を用いることが多い。ゴールに到達するまでの障害となりそうな事柄をすべて考えるのである。たとえば、典型的な「思案」型の生徒が数学の成績でAを取りたいとすると、宿題を終えられないのではないか、そもそも勉強ができる静かな場所などないではないかと考えます。そうすると授業中も気をそらしてしまいます。このように「思案」もまた実際の達成には繋がらないのです。
では、もう一つの人が目標を設定するときに用いる戦略とはなんなのでしょうか。そして、それがどうやら成功する戦略であるということなのですが、どういったものなのでしょうか。