高校同等修了資格

ジェームス・ヘックマンは経済学の教授ですが、最初はコロンビア大学に勤め、それからシカゴ大学にうつります。2000年には、1970年代に考案した複雑な統計の方式でノーベル経済学賞を受賞しました。彼はノーベル賞受賞がもたらした影響力と名声を専門分野での足場固めに使うのではなく、研究範囲や行動範囲を以前にはほとんど知らなかった新しい分野へと広げるために使っていきます。その中にはパーソナリティ心理学や医学、遺伝学も含まれています。2008年以降、ヘックマンは定期的に招待者限定の会議を開いており、その半数が心理学者という集まりで、全員が多かれ少なかれ同じ疑問に興味を持っていました。それは「成功につながるスキルや気質とはなにか?」「それは子ども時代にどのように伸びるのか?」「どういう種類の支援策が子どもたちの助けになるのか?」といったことです。

 

こういった様々な研究をしていく中で、その後、ヘックマンのキャリアは、1990年代後半に行った高校修了同等資格(GED)に関する研究を発端に転換していきます。これは高校を中退した者が高校卒業と同等の資格を得られる手段の一つです。多くの地域で、高校を中退する割合が高い低所得者層やマイノリティの生徒たちに大学への道を開き、教育機会を等しく提供するツールであるとみなされていました。

 

このGEDの普及は、知能至上主義の見解の一つ、「学校に行くことで伸びるのも、高校の卒業証書で保障されるのも、ともに認知的スキルであるという信念」に基づいて起きています。つまり、もし十代の子どもがすでに高校を卒業できる程度の知識や知能をもっているなら、卒業まで実際に学校に通って時間を無駄にする必要はない。テストに合格すれば、高校の卒業生であること、他の卒業生と同様に大学その他の高等教育に進む準備はできていることを国が法的に保障しようということです。

 

これは特に高校に我慢ならない若者にとっては魅力的な考え方であり、GEDプログラムは1950年代の導入時以降急速に広まりました。最盛期に至っては2001年、百万人以上の若者がテストを受け、新しい卒業生のうちほぼ5人に1人がGEDテストの合格者だったそうです。そして、現在ではおよそ7人に1人になっているそうです。

 

このようにGEDテストの合格者は高校の卒業生とまったく同じように高度な学問への準備ができているとされているのですが、ヘックマンはこのことをもっとよく吟味したいと思ったのです。そして、意外なことが見えてきました。