IQからEQへ

知能指数というとまず思い浮かぶのがIQ(intelligence Quotient :知能指数)だと思うのですが、ここ20~30年の間に非常に注目されるようになってきたのが、EI(Emotional Intelligence)という概念です。それはどういった概念化というと「情動状態を知覚し、思考の助けとなるよう情動に近づき、情動を生み出し、情動や情動的知識を理解し、情動面や知的側面での成長を促すよう情動を思慮深く調整する能力」と定義されているもので、米国の心理学者で科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマンの著書がEIに着目し、ベストセラーになることで広く知られるようになりました。

 

そもそも、このEL(感情指数)というのは1990年イェール大学のピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士による研究で、IQの高さとビジネスの成功度合い(年収や役職など)との関連性を調べたところ「IQの高さとビジネスでの成功に関連性はない」という結論に達しました。では、「ビジネスでの成功者たちに共通する要因は何か?」と成功者たちの能力、性格、ビジネススタイルなどを調査していくと、成功するための能力として、「自身の感情を的確に把握し、感情のコントロールがうまいだけでなく、他者の感情の状態を感じ取る能力にも長けている。それによって、周りの人間と良好な関係を築くことができ、結果として優秀な成果を上げていた」という結果がでました。つまり「対人関係能力に優れていた」というのです。そこで、この能力をEL(感情指数)と名付けました。この研究を受けて、ゴールマンはEIがIQよりも重要ということに着目し、それを受けて米国の「TIME」誌がIQに対するEQ(Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)という特集を組んだことでEQという言葉が一躍注目を浴びます。当時、米国はIQ偏重社会でありましが、この報告を受けて、これまでの学歴重視であった微シネス界から約8割の企業がEQを人事制度に採用していくというほど、大きな影響を与えたのです。

 

EQとは「心の力」であり、「人間性を示すもの」です。IQは表の道、EQは裏の道と言えるかもしれませんと藤森氏は言います。そして、EQを構成する要素は①自分の感情を感じ取る能力、②最適な感情を作り出す能力、③他者の感情を把握し、相手の言動の中での感情の位置づけを理解する能力、④自己成長を促すために感情をコントロールする能力です。これらの能力が優れているほど周囲の人間と円滑なコミュニケーションができるようになると言われています。また、この能力はビジネスの分野だけではなく、「職種や役職に関係なくすべての人間に必要とされる能力」です。学力においても大切なのは「コミュニケーション能力」であると言われています。

 

こういったEQ(感情指数)を上げていくためには、学校の学問といった知識を得る表の道だけでは養うことができません。人との関りを通したコミュニケーションを土台とした裏の道を中心に養っていかなければ向上はしていきません。そして、その能力はIQ以上に将来の社会にも大きく影響していきます。これからの社会、AI(人工知能)が世の中でもっと活用してくると、ロボットができないことを人間がするような時代になります。そして、それはこのEQが求められる職業なのではないかと考えられます。今後、大学の入試内容が変わってくるなど、社会的に見ても、知識偏重社会から意欲や発想力、対話力といったものへの教育にシフトしていくのはこのEQを培うことが中心になってくるからなのでしょう。こういった社会が大きくシフトしていく中、教育の大きな目標は一体何なのかを見つめなおさなければいけない時代でもあると思います。その時、乳幼児教育において、EQにつながる保育や教育をどう見据えていくのかが試されているように感じます。